クリストファー・ノーランが誘う、記憶という名の迷宮
『メメント』(2000年)はとにかくプロットがすごい。保険会社の調査員レナード(ガイ・ピアース)は、妻をレイプされたうえ殺されてしまう。しかも彼自身、ショックで10分しか記憶を保てない「前向性健症」に。
僕にもやたら物忘れの激しい痴呆症のような友人がいるが、このレナード君はそんな比ではない。なにしろ10分前に何があったかを知るために、彼は膨大にポラロイド写真を撮ったり、メモを書いたりしなきゃいけないんである。
印象的なのは『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)ではひ弱そうな刑事を演じていたガイ・ピアースが、真実を刻印すべく自らの肉体にタトゥーをいれていることだ。
脳に記憶を刻むことができない彼は、肉体を記憶媒体として活用する。タトゥーを刻む時の痛みすら、彼は記憶することができない。その痛みは過去のインプットではなく、未来へのアウトプットとして機能する。
10分ごとに過去にフラッシュバックしていくというテクニック自体はそれほど画期的なものではない。「記憶」イコール「真実」ではない、というオチも目新しいものではない。しかし、この映画はとにかく構成がうまいんである。
軽薄そうなキャラがハマリ役の、ジョー・パントリアーノ(そういえば彼はキャリー・アン・モスとは『マトリックス』(1999年)繋がり。物語的にも『仮装現実と真実』というキーワードが本編とリンクする)が殺されるシーンをオープニングにもってくるセンス、ドラマの重要なキーワードとなるサミーのエピソードをテンポよく挿入していく編集。
クリストファー・ノーランは我々の脳に挑戦する。記憶という名の迷宮に閉じ込められた真実は、過去・現在・未来という時間軸の中に潜んでいるのだ。クールでスタイリッシュな演出は、ガイ・ピアースのマッチョな肉体と共にドライヴする。
それは刺激的で快楽的な体験であるはずだ。
- 原題/Memento
- 製作年/2000年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/113分
- 監督/クリストファー・ノーラン
- 脚本/クリストファー・ノーラン
- 製作/スザンヌ・トッド、ジェニファー・トッド
- 撮影/ウォリー・フィスター
- 美術/パティ・ポデスタ
- 音楽/デヴィッド・ジュルヤン
- 衣装/シンディ・エヴァンス
- 音楽/デヴィッド・ジュルヤン
- ガイ・ピアース
- キャリー・アン・モス
- ジョー・パントリアーノ
- マーク・ブーン・ジュニア
- ラス・フェガ
- ジョージャ・フォックス
- スティーヴン・トボロウスキー
- ハリエット・サンソム・ハリス
- トーマス・レノン
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