クローサー/マイク・ニコルズ

クローサー(ジュリアロバーツ) [Blu-ray]

『クローサー』は、恋のよろこびを謳った映画ではない。

恋とは、心の奥底に沈殿している感情が水面下まで浮かび上がって来ることだ。ほのかな情熱が、体中に染み渡ることだ。

だが、この映画にそのようなロマンティックな描写は皆無。あるのは、恋の始まる“予感”と、恋が終わった後の“倦怠感”だけである。

原作は、世界30ヶ国語に翻訳され、100都市以上で上演されたというパトリック・マーバーによる戯曲(映画のシナリオも彼が手がけている)。

ロンドンを舞台に、ジャーナリストのダン(ジュード・ロウ)、フォトグラファーのアンナ(ジュリア・ロバーツ)、皮膚科医師のラリー(クライヴ・オーウェン)、ストリッパーのアリス(ナタリー・ポートマン)による男女の恋愛模様が、生々しくもシニカルな視点で描かれる。

この映画で特徴的なのは、時間経過がいっさいキャプションで明示されないこと。シーンが変わると平気で数ヶ月や1年くらい経っていて、しかもそれが「交際3周年記念で田舎に旅行に行った」みたいなセリフで唐突に知らされるものだから、観ていてけっこうアセる。

登場人物の関係性もまた同様。さっきロンドンの片隅で知り合ったばかりのダンとアリスが、次のシークエンスでは恋人同士という設定で登場し、にもかかわらずダンはアンナと浮気心を起こしてしまっていたりする。

情報を隠匿することによって、「いかに人間の関係性が移ろいやすいものか」をつまびらかにする戦略がとられているのだ。

その結果『クローサー』は、恋愛とはしょせん幻想にすぎない、というミもフタもない現実を眼前に突き出してみせる。マイク・ニコルズ監督の長年のパートナーであるダイアン・ソウヤーは、この『クローサー』を評して「嘘をつく重要性を描いた映画」と語ったそうだが、まさに言い得て妙。

登場人物はみんな恋愛の幻想を信じ、偽りよりも真実を求めるが、そこにもはや愛のカケラもなく、裏切られたり騙されたりして、関係の終焉・修復を繰り返していく。

恋愛原理主義者として、ダンに「永遠の愛」を誓っていたはずのアリスが、実は自分の名前すら偽っていたというのは、実にシニカルだ。

恋愛映画としてのカタルシスをいっさい排除し、肉欲にあけくれる男女4人の愛の不毛を描いた作品として、僕はこの映画を支持します。

ひとつ不満を言わせていただくとしたら、やっぱりナタリー・ポートマンのヌードシーン・カット事件だろう!実際ナタリーは全裸をいとわぬ覚悟でストリッパー役を演じ切ったのだが、撮影シーンは後にすべてカットされたという。

一説にはエージェントでもある彼女の母親からストップがかかったそうな。ファーーーーーック!!ナニしてくれとんねん!

DATA
  • 原題/Closer
  • 製作年/2004年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/103分
STAFF
  • 監督/マイク・ニコルズ
  • 脚本/パトリック・マーバー
  • 製作/ケイリー・ブロコウ、ジョン・コーリー、マイク・ニコルズ、スコット・ルーディン
  • 製作総指揮/セリア・コスタス、ロバート・フォックス
  • 音楽/モリッシー
  • 撮影/スティーヴン・ゴールドブラット
  • 編集/ジョン・ブルーム、アントニア・ヴァン・ドリムレン
CAST
  • ジュード・ロウ
  • ジュリア・ロバーツ
  • クライヴ・オーウェン
  • ナタリー・ポートマン
  • コリン・スティントン
  • ニック・ホッブス

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