ミステリーという道具立てに魔法というファンタジーをふりかけた、アレンジングの妙が光る第3作
『ハリー・ポッターと賢者の石』は単なる血統主義のお子様映画だと思ってたけど、『ハリー・ポッターと秘密の部屋』では、製作者側がそれを逆手にとった意外な展開をみせてくれた。
「純血主義」を標榜する何者かがマグル(人間)の血が混じった子供たちを襲い始め、魔法使いとマグルの混血種であるハリー・ポッターがそれを退治するという物語は、ヒットラーがアーリア人優位主義を唱え、ユダヤ人を迫害したのと何ら変わらない。
「純血至上主義」へのささやかな批判はもちろんだが、ポイントは、主人公であるはずのハリーくんが「ヘビ語がしゃべれる」という新事実から、自分自身が両親を殺した闇の魔法使い・ヴォルデモートの血を受け継ぐ者ではないかという疑念がおこるというコト。
「アイデンティティーとの対峙」という内面の葛藤が浮き彫りとなるハリーくん。単なる勧善懲悪ではなく、陰陽の原理の如く「善」と「悪」が渾然一体となった、複雑な構造が垣間見えるんである。
もうひとつ興味深いのは、この「史上最強のファンタジー」が実に箱庭的な映画である、ということだ。基本的には魔法学校ホグワーツの半径数キロメートル内で展開するこの作品は、空間的な広がりが皆無。閉鎖的な空間でストーリーが語れらるために、必然的に物語がプチミステリーにならざるを得ない。
ホグワーツ内で次々と起こる奇怪な事件、それを解決するハリーくんとその仲間たち。明らかに推理小説のプロットである。『ハリー・ポッターと秘密の部屋』は、「ミステリー」という道具立てに「魔法」というファンタジーをふりかけた、アレンジングの妙が光る映画なのだ。
シェイクスピア俳優のケネス・ブラナーがダメダメな新人教師ギルデロイを演じるのも面白いが、なんと言ってもハリーとロンくんが思いっきり声変わりしているのが笑える。特にハリーくんはすっかり大人びちゃって、可愛さがなくなったねえ。それに対してハーマイオニーはますます可愛くなっていいカンジ。
最後の最後で、彼女が意識しているのはハリーくんではなくて「ミスターいい人」ロンくんだと思わせるシーンもあったが、第3作目以降は恋の行方も交えた『スター・ウォーズ エピソード2』みたいな展開になるのかいな。まあ、それはそれでいいんだけど。
それにしても、この物語の最終地点はどこにあるのだろう?一話完結式シリーズ映画なのは重々承知だが、たとえば『ロード・オブ・ザ・リング』では闇の冥王サウロンが作り出した指輪を、オロドルイン山の火口「滅びの亀裂」に投げ込むというという目的がある。『ハリー・ポッター』における、ハリーくんが両親の敵ヴォルデモートを倒すというのは、目的ではなくバックグラウンドにしか過ぎない。
ホグワーツ内で起きる怪事件を、ハリーくんとその仲間たちが解決する。これだけのスタイルで3作目以降シリーズをもたせられるのだろうか?ハリーくんの魔法があと何年世界を熱狂させられるのか、大変興味がある。
- 原題/Harry Potter And The Chamber Of Secrets
- 製作年/2002年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/161分
- 監督/クリス・コロンバス
- 脚本/スティーブ・クローブス
- 製作/デイヴィド・ヘイマン
- 原作/ジェイ・K・ローリング
- 撮影/ロジャー・プラット
- 音楽/ジョン・ウィリアムズ
- 美術/スチュアート・クレイグ
- 編集/ピーター・ホネス
- ダニエル・ラドクリフ
- ルパート・グリント
- エマ・ワトソン
- マギー・スミス
- ケネス・ブラナー
- リチャード・ハリス
- ジョン・クリース
- ロビー・コルトレーン
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