『Undercurrent』──ピアノとギターが紡ぐ、静謐で研ぎ澄まされた音の対話
『Undercurrent』(1962年)は、ビル・エヴァンスとジム・ホールがニューヨークで録音したデュオ作品で、ピアノとギターのみで構成された全編が特徴である。録音は1962年の複数日程で行われ、収録曲には「My Funny Valentine」「I Hear A Rhapsody」「Dream Gypsy」「Skating In Central Park」などが含まれる。エヴァンスはトリオ活動期と並行してデュオ録音に取り組んでおり、ホールも当時複数のセッションに参加していた。両者が旋律と伴奏を交互に担いながら進む構成が中心となり、曲ごとに主旋律を演奏する担当が切り替わる点が特徴である。アルバムのカバー写真は写真家トニー・フリーゼルによって制作され、モノクロイメージが作品に関連づけられている。
クールで思索的なインタープレイ
僕はあまりジャケ買いはしないタチなのだが、『Undercurrent』(1962年)のジャケットには強烈に心惹かれたのを覚えている。
ファッション写真をメインに作品を発表していたというアメリカの女性カメラマン、トニー・フリーゼルによるフロント・カバーは、澄んだ湖底に漂う白いドレスの女性のモノクロショット。『リング』(1998年)系Jホラーの不穏さを漂わせつつ、名状しがたい聖性も感じさせる。残酷なまでに美しい一枚だ。
1962年にニューヨークで録音された『Undercurrent』は、ビル・エヴァンスのピアノとジム・ホールのギターのみで演奏されるコラボレーション作品。
両方ともメロディー楽器であるからして、一般的にピアノとギターのデュオは難しいとされているが、この二大天才が楽器を鳴らせば、もはや細胞レベルで絡み合ってしまう。
ビル・エヴァンスの伝記作家で知られるピーター・ペッティンガーは、
ピアノとギターという両方がコード楽器である組み合わせには“音が詰まりすぎる危険”があったが、エヴァンスとホールはすばらしい知性と相互認識をもって、その罠を回避した
とコメント。
音楽ジャーナリストのマイケル・フレマーも、
まるで同一の演奏者が同時にピアノとギターを弾いているかのように感じられるほど、エヴァンスとホールによるアイデアの調和が生んだ音楽だ
と語っているほどだ。
必要最低限の音だけを丁寧に選択する、引き算の美学
クールで思索的なインタープレイ(音楽的会話)は悶絶必至。一方がメロディーラインを弾けば一方がバッキングに徹し、音楽に豊穣さと陰影を付与していく。
M-1「My Funny Valentine」から、疾走感のあるインタープレイが全開。中盤以降、エヴァンスの完全独奏状態を横目でにらみつつ、ジム・ホールが一小節ごとにコードチェンジさせながら、リズム・セクションに徹する展開がスリリングだ。
M-2「I Hear A Rhapsody」ではジム・ホールが、M-3「Dream Gypsy」ではエヴァンスがイントロの主旋律を奏でつつ、鷹揚としたタイム感のなかで煌めくような時間が流れていく。
個人的に好きなのが、M-5「Skating In Central Park」。モダン・ジャズ・カルテットのジョン・ルイスが作曲した、実にキュートな三拍子ワルツである。
こういう曲には余計な装飾なんぞ必要なし。エヴァンスとジム・ホールは引き算の美学で、必要最低限の音だけを丁寧に選択して演奏する(ジム・ホールは、途中から単音しか弾いていなかったりするのだ!)。
なんてシンプルで、なんて美しいんだろう。でも煎じ詰めれば、音楽ってそんなもんなんだろうとも思う。
- アーティスト/Bill Evans & Jim Hall
- 発売年/1962年
- レーベル/Blue Note
- My Funny Valentine
- I Hear A Rhapsody
- Dream Gypsy
- Romain
- Skating In Central Park
- Darn That Dream
- Stairway To The Stars
- I’m Getting Sentimental Over You
- My Funny Valentine (alternate take)
- Romain (alternate take)

