“たおやかさ”と“しなやかさ”を感じさせる、電子音のさざめき
今からもう10年以上前になるが、SEとして日々業務に忙殺される傍ら、エレクトロニカ系ミュージシャンとしても活動している会社同僚のH氏が「オススメですよー」と貸してくれたのが、The Booksの2ndアルバム『The Lemon Of Pink』(2003年)だった。
彼らについてはまったく知識がなかったのだが、Nick ZammutoとPaul de Jongによって結成されたニューヨーク発のエレクトロニカ・ユニットで、すでにドイツのレーベルから3枚アルバムをリリースしている、とのこと。Prefuse73とのコラボ歴もアリということで、まったくもって自分の浅学を痛感した次第。
んで、早速家に帰って聴いてみたところ、これが尋常じゃないくらいに大傑作なアルバム。弦楽器をベーシックにアナログな手続きで鳴らされた生音を、独特のカット・アップ感覚でコラージュ。
サンプリング・ミュージックでありながら、ペンギン・カフェ・オーケストラのような“たおやかさ”と“しなやかさ”を感じさせる、実に肉感的な作品なのだ。
ポエトリー・リーディングのような人間の「声」を、メロディーではなく環境音として配置しているセンスは、ローリー・アンダーソンにも近い感覚があるかもしれない。
オープニングを飾るM-1『The Lemon Of Pink』からゾクゾクさせられる。排他的で無機質なミュージック・コンクレート風アプローチの楽曲と思いきや、バンジョーの能天気なメロディーが牧歌的な風情を漂わせる。
それでいて、アヴァン・ポップな歌モノとしても成立してしまっているのだから、辛抱たまりません。「いーしやーき」という日本語が、珍妙すぎるストレンジ・ワールドを構築している。
弦楽器のループ音+環境音+謎の日本語で構築された音響空間は、ハイファイ<ローファイな感性で紡ぎ上げられたピースフル・プレイスだ。もはやエレクトロニカの定義は、電子音がピコピコと飛び回るサウンドを指すものではない。
『The Lemon Of Pink』は、ゼロ年代のポスト・エレクトロニカの代表格として語られるべきアルバムである。
- アーティスト/Books
- 発売年/2003年
- レーベル/Tomlab
- The Lemon Of Pink
- The Lemon Of Pink, Pt 2
- Tokyo
- Bonanza
- S Is For Evrysing
- Explanation Mark
- There Is No There
- Take Time
- Don’t Even Sing About It
- The Future, Wouldn’t That Be Nice?
- A True Story Of A Story Of True Love
- That Right Ain’t Shit
- PS
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