折坂悠太のジャンルレスな音楽嗜好がさらに色濃く表れた一枚
一時期、中村佳穂の動画をひたすら観続けていた時期があった。その天衣無縫なパフォーマンスに圧倒され、「天才って、こういう人のことをいうのかいな」と感動し、また動画を観るという、ナカムラカホ・ループに陥っていたのである。
確か折坂悠太の演奏を初めて観たのも、中村佳穂つながりだった。くるりの『ばらの花』を、二人がコラボしていたのを発見したんである。
何となく“折坂悠太”の名前は知っている程度だったので、慌てて彼の作品をチェック。中村佳穂にも勝るとも劣らぬ才能であることを知り、驚愕する。世の中、天才ばっかやん!
平成元年、鳥取生まれ。父親の仕事の都合で、幼少時をイランで過ごす。自分には100%異文化であるはずのコーランに、なぜか懐かしさを覚えたという。
再び父親の転勤でロシアで3年暮らし、日本に帰国。だが彼は不登校になってしまう。時間割通りにカリキュラムが進行し、休みになると特定の友達と喋る、という学校のシステムに自分を合わせることができなかったのだ。
千葉県のフリースクールに通うようになり、趣味の延長でバンド活動を始め、2013年にはギターの弾き語りをスタート。自主1stアルバム『たむけ』(2016年)をリリースするやいなや、折坂悠太は錚々たるアーティストから一目置かれる存在となった。
後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、GONTITI、寺尾紗穂、宇多田ヒカルといった面々が絶賛コメントを寄せ、彼の稀有な才能を高く評価したのだ。
そして2018年にリリースされた2ndアルバム『平成』は、折坂悠太のジャンルレスな音楽嗜好がさらに色濃く表れた一枚に。それは、異文化のコーランに懐かしさを覚えたという彼にとって、至極当然な結果なんだろうけど。
M-2『逢引』は氷川きよしの『きよしのズンドコ節』にインスパイアされ、M-6『みーちゃん』はジャニス・ジョプリンの『Summertime』丸出し。M-7『丑の刻ごうごう』は民謡で、M-10『さびしさ』はボブ・ディランみたいなフォーク・ロック。
一つのジャンル、一つの方法論に押し込めてしまうこと自体がナンセンス。歌謡曲、童謡、民族音楽、フォーク、ブルース、あらゆるルーツ・ミュージックを“和洋折衷”ではなく“和洋ない混ぜ”させてアウトプットさせてしまうのが、折坂悠太の才能なんである。
それでいて、自分のDNAに刻まれた“コブシ”のある歌唱法であることも見逃せない。ジャンルレスでありながら、ルーツが日本人であることも強烈に意識している。
『平成』という大きなテーマをタイトルに選んではいるが、描かれているのは、極めてささやかな個人史。パーソナルな視点で描かれた、サウンド・コラージュが本作なのである。
あとどうでもいいことだけど、『みーちゃん』の「みーちゃん だーめー」という節回しに、アンチモラルなエロティシズムをビンビンに感じてしまったことを告白いたします。
- アーティスト/折坂悠太
- 発売年/2018年
- レーベル/のろしレコード
- 坂道
- 逢引
- 平成
- 揺れる
- 旋毛からつま先
- みーちゃん
- 丑の刻ごうごう
- 夜学
- take 13
- さびしさ
- 光
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