監督の細田守は、『サマーウォーズ』のインタビューで、
『時をかける少女』が3人の少年少女のシンプルな映画だったので、その反動というのはありますね
と答えている。「その反動」とは、即ち膨大な登場人物の数。
曽祖母の90歳の誕生日を祝うために、何と26人の親族が集まるのだ。26人それぞれに人格を与え、キャラ設定に基づいた演技をさせるというのはアニメでは大変なコト。
序盤で親族一同で食卓を囲むシーンがあるんだが、僕は画面を観ていてクラクラしそうになった。これ地味だけど膨大な作画枚数が必要ですよ。よくまあ、こんな映画を作ろうと思ったよなあ。
家族映画と一言でいうのは容易いが、家族という最小単位のコミュニティーを、リアリティーを付与させつつアニメで描くというのは、なかなかチャレンジングな冒険だと思う。
しかも、『ALWAYS 三丁目の夕日』のような懐古趣味ではなく、21世紀を生きる現在進行形の家族の姿を、明るく楽しく描出しようというのだ。その解答として細田守が編み出したのが、仮想世界OZ(オズ)と現実空間との対比だった。
OZは、赤ん坊からお年寄りまで、10億人以上がアカウントを保有するというインターネット空間。ユーザーは自分の分身となるアバターを設定して、ショッピング、スポーツ観戦、さらには納税や行政手続きまで、あらゆるサービスを利用できる。
そのOZを暴走AIが乗っ取り、現実世界を未曾有の危機に陥れる。世界中の人工衛星が、あと2時間で地球に墜落するというプログラムが起動してしまったのだ…!
仮想世界のAIの叛乱により、現実世界が危機に脅かさせる、という筋立て自体は別段新しいものではない。
クライマックスで、ハッキングAIに奪われたアカウントを奪い返すべく、花札で勝負をつけようとする場面も、SF映画の傑作『ウォー・ゲーム』で、米ソ核戦争を現実化させようとする人工知能コンピュータを止めようと、三目並べを挑むという偉大な先行例がある。
だがこの『サマーウォーズ』は、世界的なクライシスに立ち向かうセーブ・ザ・ワールド映画に非ず。あくまでおばあちゃん家に集まった親族26人が、力を合わせることに意義を見いだすお話なのだ。
たぶんそれは皆で高校野球を応援したり、皆で花札に興じたりすることと根本的に変わらない。あくまで軸足に立っているのは、極めて明るく牧歌的な家族ドラマ。そこに「一夏の戦争」というテーマが付加的にかぶさっているんである。
山下達郎の主題歌『僕らの夏の夢』に、
手と手を固く結んだら小さな奇跡が生まれる
という一節があるのだけれど、たぶんこれが『サマーウォーズ』の主題そのもののような気がする。
お互いの手を握って、お互いの温度を知る。お互いの気持ちを確かめ合う。そんな慎ましやかなやりとりが、映画の至るところに配置されていて、コミュニケーション不全に陥っている僕らをハッとさせる。
そういや細田守の前作『時をかける少女』でも、真琴と彼女のプリンを食べちゃった妹・美雪が、「ごめんね」と言いながら手を握り合うシーンがあったなあ。
本作で夏希が健二に「婚約者のふりをしてほしい」と嘆願するシーンと同様の演出。細田アニメでは、赦しを請う時においても、手と手はしっかりと結ばれるのだ。
「(家族は)シリアスな問題を描くほうがメインストリームになっている中、家族を楽しく描こうというのは、すごくチャレンジな企画なのではと、マイノリティ感を感じました(笑)。本当は王道だと思うんですけどね」
と細田守は語る。確かに『サマーウォーズ』は、照れも恥じらいもなく、王道な作品だ。王道のテーマを王道の演出で描いている。それは確かな技術力と自信がなければ出来ないことなのだが。
- 製作年/2009年
- 製作国/日本
- 上映時間/115分
- 監督/細田守
- 脚本/奥寺佐渡子
- 製作総指揮/奥田誠治
- 製作/高橋望、伊藤卓哉、渡辺隆史、齋藤優一郎
- キャラクターデザイン/貞本義行、岡崎能士、岡崎みな、浜田勝
- 作画監督/青山浩行・藤田しげる・濱田邦彦・尾崎和孝
- アクション作画監督/西田達三
- 美術監督/武重洋二
- 音楽/松本晃彦
- 神木隆之介
- 桜庭ななみ
- 谷村美月
- 斎藤歩
- 横川貴大
- 信澤三恵子
- 永井一郎
- 仲里依紗
- 富司純子
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