アラが多すぎて軽妙洒脱さを味わいきれない、残念映画
【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。】
「何じゃこりゃ!」、「金返せ!」と罵詈雑言の嵐が吹きまくっている、『ツーリスト』(2010年)であります。
2005年のフランス映画『アントニー・ジマー』を下敷きに、『善き人のためのソナタ』(2006年)で世界的名声を得たドイツ人監督フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクを迎えて、イタリアのヴェネツィアを舞台に描かれる、ハリウッド資本の映画である(ややこしい)。
個人的には、巷間言われているくらいワースト級の映画とは思わないが、誉められる出来ではないことも確か、かと。
もともとこの映画、主演にトム・クルーズ&ジャーリーズ・セロンの名前がリストアップされていたらしいが、結果的にジョニー・デップ&アンジェリーナ・ジョリーという、現在考えられる最強カップルが誕生することに。しかしこのキャスティングが大失敗だった!
ギャングから金を横領した罪で、世界各国を逃げ回っているアレクサンダー・ピアースなる人物が、恋人のエリーズ(アンジェリーナ・ジョリー)に「ヴェネツィア行きの列車に乗れ。自分と背格好が似ている男を見つけて、俺の身代わりにしろ」という指令を出し、エリーズはしがない高校教師のアメリカ人フランク(ジョニー・デップ)を誘惑。二人はすっかりイイ感じになったものの、おかげでフランクはギャングから整形手術をしたアレクサンダーだと勘違いされ、命を狙われる始末…。というのが大まかなストーリーライン。
いかにもヒッチコック風の巻き込まれ型サスペンス映画と思いきや、実はフランク自身が本当にアレクサンダー・ピアースだった…というのが、この映画の最大のトリックである。
仕掛け自体は別に悪くないと思うんだが、ジョニー・デップがハリウッド・セレブらしいゴージャス・オーラを放出しまくっていて、単なる高校教師には見えず、どーみても「曲者感」がぬぐえない。
実はエリーズが警察の覆面捜査感だった!という設定も、『ソルト』(2010年)や『ウォンテッド』(2008年)で、同様の役柄を演じているアンジェリーナ・ジョリーがキャスティングされている時点で、全くオドロキなし。
本来はもっと庶民的な俳優をキャスティングすべきだったと思うが、ジョニー・デップとアンジェリーナ・ジョリーという、ムダにゴージャスな二人を主演に迎えてしまったため、この映画に仕掛けられた最大のトリックが上手く作動していないのだ。
「他人が事件に巻き込まれる可能性があったにも関わらず、なぜアレクサンダーはエミリーに『自分と背格好が似ている男を見つけろ』という意味不明の指令を出したのか?」とか、「なぜホテルで二人だけになったときに、アレクサンダーは自らの正体を明かさなかったのか?」とか、脚本的には訳が分からないことが多すぎ。
中盤以降は、明らかにジョニデプがキャラ変。「っていうかお前がアレクサンダーじゃね?」と容易に推測させてしまうなど、フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクの演出も生温い。
本来はヒッチコックの『泥棒成金』(1955年)や、スタンリー・ドーネンの『シャレード』(1963年)のごとく、軽妙洒脱なロマンティック・サスペンスとして堪能すべき作品なんだろうが、全体的にアラが多すぎてそのムードを味わいきれず、残念な映画になってしまいました。
あと蛇足ですが、警部役をティモシー・ダルトンが演じていたんだが、すっかりヨボヨボしたおじさんになってしまって、全く気がつかず。いろいろ大丈夫か?ティモシー・ダルトン。
- 原題/The Tourist
- 製作年/2010年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/103分
- 監督/フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
- 製作/グレアム・キング、ティム・ヘディントン、ロジャー・バーンバウム、ゲイリー・バーバー、ジョナサン・グリックマン
- 製作総指揮/ロイド・フィリップス、バーマン・ナラギ、オリヴィエ・クールソン、ロン・ハルパーン
- 脚本/フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク、クリストファー・マッカリー、ジュリアン・フェロウズ
- 撮影/ジョン・シール
- プロダクションデザイン/ジョン・ハットマン
- 衣装/コリーン・アトウッド
- 編集/ジョー・ハッシング、パトリシア・ロンメル
- 音楽/ジェームズ・ニュートン・ハワード
- アンジェリーナ・ジョリー
- ジョニー・デップ
- ポール・ベタニー
- ティモシー・ダルトン
- スティーヴン・バーコフ
- ルーファス・シーウェル
- クリスチャン・デ・シーカ
- アレッシオ・ボーニ
- ジョヴァンニ・グイデッリ
- ラウル・ボヴァ
- ブルーノ・ウォルコウィッチ
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