ホテル・ルワンダ/テリー・ジョージ

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好戦的性格で毎日のように敵を増やしている映画評論家・町山智浩のブログを僕は愛読していたので、彼が『ホテル・ルワンダ』なる映画を日本で劇場公開させるべく、ロビー活動を行っていたことは承知していた。

胃もたれをおこしかねないほどヘビーな題材だったうえに、アカデミー賞ノミネートで買い付け価格が上昇したことで、どこの配給会社も劇場公開に二の足を踏んでいたんである。

しかしネットを中心にした署名運動の甲斐あって、2006年にようやく日本でも日の目を浴びることに。汗顔の至りながら、僕はルワンダ紛争の知識を1ミクロンとも持ち合わせておらず、特に関心もないまま劇場公開をスルーしてしまっていた。

ルワンダ・ジェノサイド生存者の証言―憎しみから赦しと和解へ

今回ようやくテレビで放送されたものを観た訳だが、『ホテル・ルワンダ』は平和ボケした我々日本人の健忘症に強烈な一撃を食らわす、メガトン級の鉄槌映画であった。

西欧の国際社会がどれだけアフリカ問題に無関心だったか、多くの尊い犠牲を出したことにネグレクトを決め込んだかが、静かながらも強い怒りをもって描かれる。改めて己の浅学を恥じ入るばかりなり。

日本では「同情するならカネをくれ」が流行語大賞となり、イチローが史上初の1シーズン200本安打を記録し、セガサターンとプレステが発売されてゲーム人気に拍車がかかっていた1994年、アフリカのほぼ中央部に位置する国ルワンダでは、およそ100万人にもおよぶ人々が大量虐殺されていた。

全てはツチ族とフツ族の民族闘争に起因するもの。しかし、出自が農耕民族か遊牧民族かという違いだけで、実は大きな民族的差異はない。

彼らは同じ言語を用い、同じ風習を持ち、同じ宗教を信じている。では、なぜ彼らは殺し合わなければならなかったのか?それは、ローマ帝国の時代から西欧社会では綿々と受け継がれる「分割統治」という政治手法をベルギーが施行したからだ。

ルワンダを植民地にしていたベルギーは、間違っても占領国に対して不満が爆発しないように、そこに住む人々を2つの部族に分断して、不満がもう片方の民族に向かうように仕向けたんである。

外見上は何の区別もないにも関わらず、鼻が細いだのタッパがあるだのと勝手に分類して、ツチとフツという部族を“人工的に”創りだしたのだ。かくして、ヨーロッパ人の外見に似ているとされた少数派ツチは支配階級となり、多数派のフツは差別にあえぐ生活を強いられることになる。

1962年に晴れて独立国となったルワンダだが、ここでベルギーとツチとの関係が急激に悪化。手の平を返してベルギーはフツを支援するようになる。

反主流派となったツチは、難民を中心にRPF(ルワンダ愛国戦線)を組織して、フツ政権に対する反政府運動を開始。1990年にRPFがルワンダ北部に侵攻して内戦が勃発、94年にフツによるツチの大量虐殺が行われたのだ。

『ホテル・ルワンダ』は、実在の人物ポール・ルセナバギナの視点からルワンダ虐殺を描いた一編だ。ルワンダの首都キガリにある三ツ星ホテル、ミル・コリンの支配人だった彼は、ツチとフツの難民を1000人以上かくまってその生命を救った、アフリカのシンドラーとも称される人物である。

彼の処世術は徹底したゴマスリとワイロ。ツチ、フツ、国連の有力者に金をばらまき、自らの地位を安定させていくというスネオ夫くんキャラ。

映画ではドン・チードルが演じるこの人物に観客が感情移入できるのは、彼が決して正義感をひけらかして英雄的行動にとる訳ではなく、「家族を救いたい」という想いが「一人でも多くの生命を救いたい」という想いにちょっとずつ変化していくから。彼は決して聖人君子ではない。

この映画には『プライベート・ライアン』のような残酷描写も、『プラトーン』のようなセンチメンタリズムもない。極めて等身大のアイ・レベルで、「あのとき、ルワンダでは何が起こったのか」がヴィヴィッドに暴きだされる。

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僕が『ホテル・ルワンダ』で最も震撼するシーンは、ツチをゴキブリと罵り、武力蜂起を呼びかけるラジオのアナウンスだ。その紹介を持って本稿の結びとしよう。

なぜツチを憎む?と問われたら
歴史を読めと答える

ツチはベルギー人の協力者だった
我々フツの土地を奪った
また反逆者ツチが舞い戻った

やつらはゴキブリだ 殺人者だ
ルワンダは多数派フツの土地
少数派ツチは裏切り者で侵略者だ

侵入者を一掃せよ
ルワンダ愛国戦線をつぶせ
こちらRTLM
フツ・パワー・ラジオ

DATA
  • 原題/Hotel Rwanda
  • 製作年/2004年
  • 製作国/南アフリカ、イギリス、イタリア、カナダ
  • 時間/122分
STAFF
  • 監督/テリー・ジョージ
  • 製作/テリー・ジョージ、A・キットマン・ホー
  • 製作総指揮/ハル・サドフ、マーティン・カッツ
  • 脚本/テリー・ジョージ、ケア・ピアソン
  • 撮影/ロベール・フレース
  • 美術/トニー・バロウ、ジョニー・ブリート
  • 衣装/ルイ・フィリップ
  • 音楽/ルパート・グレグソン=ウィリアムズ、アンドレア・グエラ
CAST
  • ドン・チードル
  • ソフィー・オコネドー
  • ホアキン・フェニックス
  • ニック・ノルティ
  • デズモンド・デュベ
  • デヴィッド・オハラ
  • カーラ・セイモア
  • ファナ・モコエナ
  • ハキーム・ケイ=カジーム
  • トニー・キゴロギ

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