三池崇史が日本映画の黄金期の“熱”を現代に蘇らせた、血で血を洗う阿鼻叫喚の集団戦争
『十三人の刺客』(監督/工藤栄一、主演/片岡千恵蔵)のオリジナル・バージョンは、日本映画の黄金期の1963年に製作された傑作時代劇である。
リアリズムに徹した殺陣が当時話題となり、およそ30分に及ぶクライマックスの13人対53人の集団チャンバラは、史上最長と称された。
日本映画の黄金期の“熱”を現代に蘇らせんと、今回『十三人の刺客』リメイクを買って出たのが、“日本一忙しい映画監督”三池崇史。
東京ドーム20個分という破格の広さで宿場町をセットで再現し、役所広司や市村正親など、当代随一の役者を揃え、問答無用のエンターテインメント時代劇が完成した(余談だが、1963年度版は東映配給だったが、リメイク版は東宝配給である。時代の変遷を感じるなり)。
島田新左衛生門(役所広司)が「みなごろし」と書かれた紙をしっかと見せつけ、「斬って斬って斬りまくれー!!」と号令をかけると、近年の日本映画では例をもないほどの、大殺戮がスタートする。
武士道なき時代にあって、武士道を全うして死に場所を探している13人の侍たちが、尋常でない狂気をギラギラ漂わせながら、300人もの敵を向こうに回して大立ち回りを演じるんである。
多勢に無勢という設定は、近年でも『300 〈スリーハンドレッド〉』に代表されるように、カタルシスを発動させるお馴染みのパターンではある。
しかし、無勢が多勢に勝つには、あらゆる策略を張り巡らせた頭脳戦に持ち込むしかない。実際『十三人の刺客』でも、敵方の明石藩が通過予定の宿場町を買い取って、カラクリだらけの巨大要塞に仕立て上げるのだ。
仕切りで敵の軍勢を分断させ、炎に包まれた猪を猛進させるわ、高見の上からガンガン弓矢を射るわ、刺客たちの計画は大成功。
しかし敵の数が200人になったあたりで、彼らは突如弓矢を捨て去り、「小細工はここまでだー!!」とガチンコの肉弾戦に転じるのだ。
カラクリ細工で敵方に勝つというのは、武士道に背く行為だと思ったのだろうか?しかし、さすがに13人対200人というのは、武士道に殉ずるというよりも単なる無謀にしか過ぎないんではないか。
手当たり次第にオンナを手篭めにするわ、自分に歯向かう者は子供でも遠慮なく殺すわで、暴君ぶりが目に余る松平斉韶(稲垣吾郎)。こんなスーパー・サディストが老中に就任することになり、こりゃ何が何でも阻止しないと、日本の未来はない!暗殺すべし!というのが、13人の刺客たちが立ち上がった目的だったはず。
しかし、200人相手にガチンコ対決に転じるというのは、そんなお題目なんぞどーでもいいモードになっているとしか思えない。
結局のところ『13人の刺客』は、死に場所を求めている男達のドラマなんである。太平の世に産まれ落ち、侍でありながら血をたぎらせるシチュエーションに巡り会えず、焦燥感を募らせて行ったであろう男達が、主君・松平斉韶の暗殺というミッションに参加し、命を燃やしたいと考えたに過ぎない。
実際、暗殺計画を伝えられた役所広司が、「良い死に場所を与えていただいてありがとうございます」と謝意を語るシーンが、あるではないか。
実は松平斉韶もまた、死に場所を求めている哀しい存在である。徳川の世が長く続かないことを予見している彼は、徳川的因習に反発し、戦乱の世を期待している。
彼はスーパー・サディストなのではなく、スーパー・アナーキストなのだ。島田新左衛生門に斬られる場面でも、「礼を言うぞ。今までのなかで一番今日が楽しかった」とうすら笑みを浮かべつつ、死んでいく。
テーマなんぞどーでもいい!死に場所を求めている男達の、血がたぎる壮絶な殺戮戦を観てくれ!と開き直った三池崇史の演出。ほとんど無目的、死ぬこと自体が目的といったような肉弾戦。
だからこの『十三人の刺客』には、不思議なくらい悲壮感が感じられない。あるのは血で血を洗う阿鼻叫喚の集団戦争だけである。
現代にチャンバラを描くということは、そういうことなのだと三池崇史は確信しているのかもしれない。
- 製作年/2010年
- 製作国/日本
- 上映時間/141分
- 監督/三池崇史
- エグゼクティブプロデューサー/中沢敏明、ジェレミー・トーマス、平城隆司
- プロデュース/梅澤道彦、市川南、白石統一郎
- 共同プロデュース/寿崎和臣、臼井央
- プロデューサー/大野貴裕、吉田浩二、前田茂司
- 原作/池宮彰一郎
- 脚本/天願大介
- 音楽/遠藤浩二
- 撮影/北信康
- 照明/渡部嘉
- 録音/中村淳
- 美術/林田裕至
- 編集/山下健治
- 役所広司
- 山田孝之
- 松方弘樹
- 沢村一樹
- 伊原剛志
- 古田新太
- 伊勢谷友介
- 稲垣吾郎
- 市村正親
- 内野聖陽
- 平幹二朗
- 松本幸四郎
- 谷村美月
- 吹石一恵
- 岸部一徳
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