ほぼ『切腹』の焼直し、リメイクした理由が見つからない凡作
長さ30ページほどの短編小説『異聞浪人記』を、名脚本家・橋本忍が巧妙な構成とハートに染みいるセリフでシナリオ化した結果、小林正樹監督の『切腹』(1962年)は、日本映画史に残る傑作時代劇となった。
そのリメイクを作るにあたって、鉄壁シナリオを書き換える必要なんぞ微塵もなし!・・・と踏んだのか、この『一命』(2011年)の構成はほぼ『切腹』の焼直し。脚本には山岸きくみの名前がクレジットされているものの、完全に橋本忍の引力圏内。まあ確かに手堅い戦略です。
しかし、それではあまりにもリメイク作品としてのオリジナリティーに欠けると思ったのか、製作サイドが招聘したのは“暗黒系量産作家”三池崇史であった。
工藤栄一の傑作『十三人の刺客』(1963年)を、目を覆いたくなるばかりの血みどろスプラッターにリ・ボーンさせた功績は記憶に新しい。ハードコア時代劇リメイカーとしての実績が買われての起用であった。
事実、残酷描写はオリジナル以上の凄惨さ。千々岩求女(瑛太)が竹光で切腹するシーンなんぞ、グビグビと剣先を内臓に押し込む求女に対して、介錯人が平然と「まだまだー!」と言い放つ非道ぶり。三池崇史のドS気質がスパークしている。
地面に割れた卵を横ばいになって吸ったり、嗚咽をあげながら血で汚れた手で饅頭を食べたり、不気味な効果音と共にサザエのつぼ焼きを丸呑みしたり、“食”に対するアブノーマル描写も健在なり。
しかしこの映画、「武士道とは何ぞや?」というギモンが推進力となるディスカッション・ドラマなんであって、三池崇史が己の残酷性を発揮できる余地は、実は猫の額程度。
となると評価のカギはトーゼンのごとく役者陣にかかってくるのだが、オリジナルの仲代達矢&三國廉太郎という神ツートップと比較してしまうのは、あまりにも分が悪すぎる。
井伊家家老の斎藤勧解由役を演じた三國廉太郎は、そこはかとない狂気が見え隠れする爬虫類系演技で、観る者を震撼させた。名優・役所広司をもってしてもその域にはおよばず、「片足をひきずる」という禁じ手気味のキャラ設定で追いすがるのみ。
であるなら、信義に厚い”真っ当な常識人”として描いたほうが、逆に封建社会の歪みを露呈できたんんじゃないか?
一番の問題は、主人公の津雲半四郎を演じる海老蔵。歌舞伎芝居が骨の髄まで染みついているせいか、妙にゆらぎのある発声をしていいて、何を喋っているんだかさっぱり分からないのだ(なぜだか感情がたかぶると、ゆらぎが消えて聞きやすくなる)。これはもう芝居云々のレベルで片付けられないミステイク。
キャプションつけないとダメだぞこりゃ。
- 製作年/2011年
- 製作国/日本
- 上映時間/126分
- 監督/三池崇史
- 原作/滝口康彦
- 脚本/山岸きくみ
- 音楽/坂本龍一
- エグゼクティブプロデューサー/中沢敏明、ジェレミー・トーマス
- プロデューサー/坂美佐子、前田茂司
- 撮影/北信康
- 照明/渡部嘉
- 録音/中村淳
- 美術/林田裕至
- 装飾/坂本朗、籠尾和人
- 衣裳/黒澤和子
- 編集/山下健治
- 市川海老蔵
- 瑛太
- 満島ひかり
- 竹中直人
- 青木崇高
- 新井浩文
- 波岡一喜
- 天野義久
- 大門伍朗
- 平岳大
- 笹野高史
- 中村梅雀
- 役所広司
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