タイトルがズバリ『斬る』だもんで、筋書きなんぞ二の次とばかりに、斬って斬って斬りまくるスプラッタ時代劇と思っていたら、全然違いました。
岡本喜八作品らしい、ウェルメイドで垢抜けたプログラム・ピクチャーに仕上がっており、全体に飄々とした雰囲気がパッキングされている。血を血で洗う大殺戮を期待していた僕には肩透かしでした。
っていうかこの映画、基本プロットはほとんど黒澤明『椿三十郎』(1962年)の同工異曲。これってやっぱ原作が同じ山本周五郎だからか。
藩の悪政を正さんと、家老暗殺を決行する忠義の志士たち、それを手助けする凄腕の使い手という構造は、そのまま『椿三十郎』における三船敏郎-加山雄三ラインに符号する。
筆頭家老の東野英治郎が幽閉されてしまう下りも、『椿三十郎』で城代家老・伊藤雄之助が軟禁されるシチュエーションと激似だ。
これでは単なる『椿三十郎』のクローン映画としか認知されなかったであろうこの作品に、強烈なスパイスを効かせているのが、侍に憧れる百姓・半次郎を演じる高橋悦史である!エツジ・タカハシである!エツジ・ワイルド・タカハシである!
女郎屋に行っても「土の匂いのするオンナをくれ」と言い放つなど、ガサツで単細胞だが気は優しい無骨キャラをヴィヴィッドに演じており、そのダイナミズムたるや、大きな鼻孔から鼻息が聞こえてきそうなほど。
とらえどころのない茫洋としたヤクザを演じる仲代達矢が、高橋悦史と好対照なコントラストを形成し、作品にユーモラスで軽やかな雰囲気を与えているのもグッド。
人気のない宿場町で空っ風に立ち向かいながら食い物を求めてさまよう悦史、茶屋があると聞いて一目散に走り出す悦史、茶屋の婆さんが自殺しているのを見て途方に暮れる悦史と、ファースト・シーンから悦史尽くしで、ファン悶絶必至。
そんな導入部を、岡本喜八はリズミカルなカッティングとシャープな映像で描き出しており、マカロニ・ウェスタンにおける定番シーン(砂塵吹き荒れるゴーストタウンに腕利きのガンマンが現れるみたいな)のような、クールネスをたたえている。
人気のない町で、つんざくような泣き声をあげるカラスや、せわしく動き回る烏骨鶏のカットを時折挿入しているのも巧い。
確かに、局面が次々に変化しすぎて物語が直線的に盛り上がらなかったり、クライマックスの大チャンバラシーンがあまりに呆気なさすぎるのは、アクション・ムービーとしてはやや物足りない。
しかし、ストイックな剣豪を演じる岸田森、人を喰ったような和尚を演じる今福正雄、冷徹無比な悪役代官を演じる神山繁など、魅力的なキャラクターたちがそれを補完している。
侍に嫌気がさした高橋悦史が、女郎たちと連れたって町を去っていくエンディングも、多幸感に満ちて味わい深し。
なお昭和37年に公開された同タイトルの三隅研次作品があるが、全くの別物なので念のため。
- 製作年/1968年
- 製作国/日本
- 上映時間/114分
- 監督/岡本喜八
- 製作/田中友幸
- 脚本/岡本喜八、村尾昭
- 原作/山本周五郎
- 撮影/西垣六郎
- 音楽/佐藤勝
- 美術/阿久根厳
- 編集/黒岩義民
- 録音/渡会伸
- 仲代達矢
- 高橋悦史
- 星由里子
- 岸田森
- 久保明
- 神山繁
- 中村敦夫
- 東野英治郎
- 久野征四郎
- 中丸忠雄
- 橋本功
- 浜田晃
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