インタビューで北野武は、何かにつけ「勝さんの座頭市」という言葉を引き合いに出している。
勝さんみたいな座頭市では絶対にないよって言ったら、それでもいいって
ちょっとでも勝さんくさいところは全部外して、勝さんのとは全然違う、でも座頭市には間違いないっていうのが出来たから
ちょっとでも勝さんくさいのは外した。勝さんのは濡れ場があったりすんじゃん?
頭の毛が黒くて地味な杖ついてトボトボ歩いてりゃ、勝さんの座頭市がなかったら“何だこりゃ”って言われるわけだけど、そういうものだと皆知ってるという前提でやったわけ
もともとこの作品は、北野武の浅草時代の恩人である齋藤智恵子女史(勝新太郎の知人でもある)から持ち込まれた企画。しかし当初は「勝新の座頭市に代わることは出来ない」とその申し出を固辞していたらしい。
それを翻意して、いわば“雇われ監督”として製作に至ったのは、忖度するに、『座頭市』という定型化されたコードを北野的モダンフレーバーで変奏したらどうなるのか?ということに挑戦したかったからではないか。要は職人作家として、エンターテインメントに徹するというスタンス。
勝新の呪縛から逃れるために、北野武は意図的に「時代劇っぽくない」要素を加味した。道具立ては「仇討ち」、「剣豪」、「盗賊」、「病弱の妻」とオーセンティックなのだが、「タップダンス」、「常識を逸した殺陣のスピード」、「金髪」と、演出はおっそろしくアバンギャルド。さらに僕が注目したいのは音楽である。
北野映画の音楽をこれまで手がけてきたのは、言うまでもなく日本が誇るマエストロ久石譲。優れた音楽家であることに疑いの余地はないが、ややもすれば、余りにもロマン派的で甘すぎるメロディーが、ドライな北野フィルムとコンフリクトを起こしていたことも事実だった。
『キッズ・リターン』(1996年)、『あの夏、いちばん静かな海。』といった、センチメンタル系にはジャストフィットするのだが、『HANA-BI』(1998年)、『BROTHER』といった非感傷系になると、途端に甘ったるくなりすぎて、胃もたれを引き起こすのである。
北野の処女作である『その男、凶暴につき』では、静謐な狂気をたたえたエリック・サティのグノシェンヌ第1番が印象的に使われてて、これはこれで素晴らしかったのだが。
今回音楽監督に起用されたのは、ムーン・ライダースの鈴木慶一。言うまでもなく、幅広い音楽教養と卓越したメロディー・センスを併せ持つ、日本のキング・オブ・ポップス。
鈴木慶一に北野が託したのは、情感溢れるメロディーではなく、エモーションをかきたてるリズムだったのではないか。
映画の裏テーマでもある「民衆の力」みたいなものを(それは思いっきり『七人の侍』(1954年)のテーマだったりする訳だけども)、躍動感溢れるビートで感じさせたかったからではないか。
そういう意味で、『座頭市』はリズム感にあふれたメタ時代劇なのだ。
- 製作年/2003年
- 製作国/日本
- 上映時間/115分
- 監督/北野武
- 脚本/北野武
- プロデューサー/森昌行、齋藤恒久
- ラインプロデューサー/小宮慎二
- 原作/子母沢寛
- 撮影/柳島克己
- 照明/高屋齋
- 美術/磯田典宏
- 衣裳/黒澤和子
- 編集/北野武
- 音楽/鈴木慶一
- ビートたけし
- 浅野忠信
- 大楠道代
- 夏川結衣
- ガダルカナル・タカ
- 橘大五郎
- 大家由祐子
- 岸部一徳
- 石倉三郎
- 柄本明
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