脱・重喜劇。今村昌平らしからぬ、ファンタジックな恋愛映画
今村昌平はかつて、自らの作品を「重喜劇」と呼んでいた。
本質的にはコメディーだが、人間の持つ醜悪さをシニカルな視点で描いた作品群は濃厚かつ重厚。重すぎて食あたりをおこしそうである。そう、今村映画を観るということは、ドロドロとした人間のエゴイズムを見せつけられて、徹底的に打ちのめされるということなのだ。
しかし時代も流れ過ぎ21世紀になった今、70歳を過ぎてなお現役の巨匠が製作した『うなぎ』(2001年)は、ファンタジックな恋愛映画。しかもその視点には優しさがあり、作品全体に枯れた味が醸し出されている。
役所広司と清水美砂が織り成す不思議なラブストーリーは、温かな現代の寓話とも言えるだろう。何と言っても清水美砂の演じるサエコのキャラクターがすごい。
彼女は体内に水がたまる特異体質で、誰かと交わると水が溢れ出すのだ。役所広司とのセックスシーンでは水が溢れっぱなし。まさに噴水状態である。
ジジイになってもエロ魂爆発の今村監督。男性と性的に交わると体内の「ぬるい水」があふれだすというプロットは、下手をすると下品な作品になりかねないが、今村昌平はユーモアにあふれたタッチで描き出す。
そこにはかつて「重喜劇」と呼ばれていた頃の脂ぎった演出はない。濃厚で脂きったステーキしかつくらなかった彼も、トシをとって精進料理もつくるようになった。
今も昔も人間のエゴは変わらないが、それを見つめる視点が変わると「人生」は新たな光を放ち始める。
- 製作年/2001年
- 製作国/日本
- 上映時間/119分
- 監督/今村昌平
- 脚本/冨川元文、天願大介、今村昌平
- 原作/辺見庸
- 製作総指揮/中村雅哉
- 製作/豊忠雄、伊藤梅男、石川富康
- 企画/猿川直人
- 音楽/渡辺晋一郎
- 美術/稲垣尚夫
- 撮影/小松原茂
- 役所広司
- 清水美砂
- 倍賞美津子
- 北村和夫
- 夏八木勲
- 北村有起哉
- 中村嘉葎雄
- ミッキーカーチス
- 不破万作
- 小島聖
- ガダルカナルタカ
- 田口トモロヲ
- 坂本スミ子
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