江戸川乱歩×実相寺昭雄、変態作家同士の夢のマッチメイク
『屋根裏の散歩者』(1992年)は、江戸川乱歩生誕100周年を記念して企画が立ち上がった。今や、“日本映画界を牽引するキーパーソン”の一瀬隆重プロデューサーが監督に指名したのは、その映画監督生活の中で、比類なきジ・ウェイ・オブ・変態を突き詰めた、実相寺昭雄であった。
やはりその作家生活のなかで、並ぶもののないザ・ロード・トゥ・変態を突き進んだ江戸川乱歩との親和性が高いことは分かりきっている訳で(とどのつまり二人とも変態な訳です)、このマッチメイクは必然だったと言えるだろう。
乱暴に要約してしまえば、厭世気分にどっぷりハマっている高等遊民が、屋根裏から下宿人たちの部屋を覗き見するという快楽を覚え、しまいには屋根裏から毒薬を垂らして殺人事件を犯してしまうという、ハードエッジな内容。
しかし、原作を忠実になぞっただけでは尺が足りない訳で、三上博史演じる主人公の倒錯的&自堕落的なオーディナリー・ライフと、成人指定にレーティングされた、濃厚なポルノグラフィック描写を存分に織り込んで、耽美と幻想の世界を再現している。
この短編を映像化するにあたり実相寺昭雄は、独特のライティング、広角を多用したカメラ、バイアスがかかったかのような斜め構図など、スタイリッシュというよりはアクロバティックな映像マジックを駆使。
過去に天知茂、小野寺昭、田村正和、稲垣吾郎といったスマート&クール系役者が演じることが多かった明智小五郎役に、『帝都物語』(1988年)でお馴染みの嶋田久作をアテるなど、キャスティングもこれまたアクロバティックだ。
この作品を一緒に鑑賞したS女史は、慧眼鋭く「三上博史は嶋田久作が好きだったんじゃないの?」という指摘をされたのだが、小生も「ナルホド」と納得。
物語の冒頭近く、カタツムリが鏡を這うシーンがあるが、この軟体動物を雌雄同体の象徴とみるなら、それ即ち己のなかに異性を発見するメタファー也。直後に三上博史が女装趣味にふけるシーンに切り替わるのも、極めて当然なモンタージュなのである。
嶋田久作が三上博史の犯罪を見逃してしまうというラストも、この二人の恋愛関係=共犯関係を示したものだろう(原作にはこのような描写はない)。
それにしても遊民宿の東栄館に、よくもまあこれだけ性的倒錯者が集まったもんだ。SM、レズ、放尿、もう何でもアリである。「覗く」という行為が主軸になるストーリーだけに、下宿者の彼らと三上博史が直接的に物語が交差することはない。
ヒロイン的なポジションに位置するであろう宮崎ますみですら、まったく物語に介在することなく、ただの頭のオカシイ女性としか描かれていないのだ。それ故に「見世物」的要素を濃くなり、卑猥さが引き立つ。
かつて「膣掃除」の異名をとった実相寺昭雄のその変態性が、’92年の時点でもなお健在であったことを証明する作品だと思います。はい。
- 製作年/1992年
- 製作国/日本
- 上映時間/77分
- 監督/実相寺昭雄
- 製作/田澤正稔、鵜之沢伸
- プロデューサー/一瀬隆重、瀬田素、石原真
- 原作/江戸川乱歩
- 脚本/薩川昭夫
- 企画/滝本裕雄、川城和実
- 撮影/中堀正夫
- 音楽/松下功
- 美術/池谷仙克
- 編集/井上治
- 録音/木村瑛二
- 三上博史
- 宮崎ますみ
- 六平直政
- 加賀恵子
- 嶋田久作
- 清水ひとみ
- 寺田農
- 平賀勘一
- 斎藤聡介
- 鈴木奈緒
- 小林政宏
- 堀内正美
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