主人公が己のDNAと格闘する、“美しいSF映画”
イーサン・ホークに、ジュード・ロウに、ユマ・サーマン。これでもかというくらい、美男美女を揃えた上に、音楽はマイケル・ナイマンときたもんだ。
無機質で人工的な美的感覚、静謐さをたたえたクラシックでヨーロピアンな世界観。フランク・ロイド・ライトが設計したカリフォルニア州マリン郡庁舎がガタカ社として登場したり、さりげなくバルセロナチェアーが使われてたりと、建築や家具もこだわりまくり。
しかも撮影を担当したのは、『トリコロール』シリーズなどでクシシュトフ・キェシロフスキ作品を支えた、名カメラマンのスワヴォミル・イジャック。コイツは近年稀にみるくらいに、「美しいSF映画」である。
しかし、クールな映像とは裏腹にテーマはアツい。優秀な遺伝子を人為的に組み合わせて産まれた、「適性者」が支配する未来管理社会。本編の主人公ヴィンセントは、「不適性者」として産まれてきたにもかかわらず、宇宙飛行士になるべく遺伝子適性をごまかして、宇宙局「Gattaca」に入社する。
↑ちなみにGattacaという名前は、その配列や大きさによって種別・性別形状を決定づける4つの塩基化合物、グアニン(Guanine)、アデニン(Adenine)、チミン(Thymine) シトシン(Cytosine)の頭文字からつけられたらしい。
「あの時と同じだ。戻ることは考えず、全力で泳いだ」
「欠点を探すのが必死で気付かなかったろう?でも可能なんだ」
「不適性者」の烙印を押された男が、その限界を超えて未知の世界に旅立とうとする。外へ、もっと外へ。主人公は己のDNAと格闘するのである。
面白いのは、「不適性者」を演じるイーサン・ホークはもちろん、ジュード・ロウは足を失ったエリート候補生、ユマ・サーマンは心臓に欠陥を抱える宇宙局員を演じていることだ。
ハリウッド随一のクール・ビューティーな彼等に、あえて完全無欠な「適正者」割り当てなかったのは、キャスティングのしたたかな計算である。
監督は、これが初演出となるアンドリュー・ニコル。ジム・キャリーが顔の筋肉の収縮を最低限に抑えて、演技派として認知された『トゥルーマン・ショー』(1998年)の脚本家として注目された才人である。よく考えたら『ガタカ』も『トゥルーマン・ショー』も、「現実の壁を打ち破っていく」映画だったんだよね。
『トゥルーマン・ショー』は、作り物の世界から現実の世界へ飛び出す男の話だったし、『ガタカ」は己のDNAの限界を克服する話。アンドリュー・ニコルにとってのメインテーマとは、現状を乗り越えようとする意志なのだ。それが、固定化された観念に対する大きな鉄槌となる。
しかーし!あれだけ整った顔をしているイーサン・ホークが「不適性者」っつうのは、やっぱイマイチ説得力に欠ける。僕だったらスティーブ・ブシェーミとか、ウィリアム・H・メイシーとか、ロン・パールマンをキャスティングします。
…あっ、でもこれじゃ「適性者」にごまかせないか。ファンのみなさん、スインマセン。でも決して馬鹿にしている訳ではありません。なんてったってロン・パールマンは、『人類創世』(1981年)の類人猿役でデビューしたんですから。
- 原題/Gattaca
- 製作年/1997年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/106分
- 監督/アンドリュー・ニコル
- 脚本/アンドリュー・ニコル
- 製作/ダニー・デビート、マイケル・シャンバーグ、ステイシー・シェール
- 撮影/スワヴォミル・イジャック
- 美術/ヤン・ロールフス
- 編集/リサ・ゼノ・チャーギン
- 衣装/コリーン・エイトウッド
- 音楽/マイケル・ナイマン
- イーサン・ホーク
- ジュード・ロウ
- ユマ・サーマン
- アラン・アーキン
- ローレン・ディーン
- ゴア・ヴィダル
- アーネスト・ボーグナイン
- ザンダー・バークレイ
- イライアス・コティーズ
- ウナ・デーモン
- エリザベス・デネヒー
- マーヤ・ルドルフ
- ブレア・アンダーウッド
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