革命家チェ・ゲバラの青年時代にスポットを当てたロードムービー
常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクションのことである
とは、確かアルバート・アインシュタインの発言だったか。
自らに巣食う常識をブチ壊し、凝り固まった価値観に新たな刺激を与えるのに、旅ほど有効な手段はない。
『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004年)は、友人のアルベルト・グラナードと共にバイクにまたがって12,000キロにも及ぶ南米大陸横断を果たした、革命家チェ・ゲバラの青年時代にスポットを当てたロードムービーだ。
いやーそれにしても無知とは怖いもの。毎回自分の浅学を告白するようで汗顔の至りでありますが、チェ・ゲバラはてっきりキューバ人だと思い込んでいた。
彼は実際にはアルゼンチン人で、ブエノスアイレス大学で医学を学んだ医者であり、そして重度の喘息持ち。っていうか、喘息持ちで南米大陸横断って危険極まりないんじゃないですか。しかし彼は持ち前の無鉄砲さで、ノープランな旅を敢行してしまうんである。
とにかくこの映画、バイクで豪快に転ぶ。転んで転んで転びまくる。まるで体を生傷だらけにしないかぎり、ホントの旅だとは言えないぐらいに。そんな彼らを癒してくれるのは、ラテンアメリカの雄大な風景。
アンデスの雪山、マチュピチュ遺跡、アマゾン川…。うーむ壮観である。映画というのは、息を飲むようなランドスケープがあるだけで成立するものなのかもしれない。
要領の良さでかかる難局を切り抜けて行く映画序盤は、ひたすらコミカルで微笑ましいシーンが満載だが、中盤を過ぎるあたりから映画はしだいに内省的な色を濃くしていき、ダイアローグよりもモノローグが支配するようになる。
移民労働者が抱える厳しい現実を目の当たりにしたり、南米最大のハンセン病コロニーで従事することによって、後に彼が武力によるラテンアメリカ革命を志すきっかけとなる、“種”が撒かれていく。ここまで映画の前半と後半とでテイストが異なる作品というのも、なかなか珍しいんではないか。
最後に80歳を過ぎたアルベルト・グラナードご本人が登場するが、そのアルベルト役を演じるロドリゴ・デ・ラ・セルナ自身も、実はチェ・ゲバラとははとこの関係。ゲバラ・ファミリーの血が、この作品に生々しい迫力を付与している。
- 原題/Diarios de motocicleta
- 製作年/2004年
- 製作国/イギリス、アメリカ、ドイツ、アルゼンチン、ペルー
- 上映時間/115分
- 監督/ウォルター・サレス
- 製作/マイケル・ノジク、エドガード・テネンバウム、カレン・テンコフ
- 脚本/ホセ・リヴェーラ
- 撮影/エリック・ゴーティエ
- 音楽/グスターヴォ・サンタオラヤ
- 美術/カルロス・コンティ
- 編集/ダニエル・レゼンデ
- 衣装/マリサ・ウルティ
- エグゼクティブ・プロデューサー/ロバート・レッドフォード、ポール・ウェブスター、レベッカ・イェルダム
- ガエル・ガルシア・ベルナル
- ロドリゴ・デ・ラ・セルナ
- ミア・マエストロ
- メルセデス・モラーン
- ジャン・ピエール・ノエル
- グスターヴォ・ブエノ
最近のコメント