極めて現代的な孤独と欺瞞に満ちた、マネーゲームに奔走する狂想曲
『ソーシャル・ネットワーク』は洪水のような映画だ。セリフ、音楽、ビジュアル、全てのファクターがトゥー・マッチすぎるくらいにぎゅうぎゅうに押し込まれている。
Facebookの創始者マーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)とそのガールフレンドが、テーブルで向かい合ってしゃべっているだけのシーンで映画は幕を明けるのだが、とにかくマシンガン・トークの嵐、嵐、嵐。「君はボストン大なんだから、勉強しても意味ないじゃん」と、内容も地雷踏みまくり。
このオープニングだけで何と99テイクもの撮影が行われたらしいが、この数分間で我々は、ザッカーバーグなる人物が鼻持ちならないアスペルガー野郎であることを知る。
“日本一忙しい映画監督”こと三池崇史は、「最初がよかった。タランティーノの映画と同じで、会話だけで2人の関係性や主人公の性格――しかも嫌な部分が見えてくる」と評している。けだし、正鵠を射るご発言!!
男女が向かい合っているだけの地味な画をオープニングにもってくるのは、作り手としても相当勇気がいっただろうが、その裏には緻密な戦略が張り巡らされているのだ。
ガールフレンドに振られた腹いせに、彼女をブログで罵倒するわ、大学寮の女子大生の写真をハッキングしてネット上でランキングさせるわ、ザッカーバーグのやること為すことサイテーの極み。
しかしながら、Nine Inch Nailsの“フロントマン”トレント・レズナーによる四つ打ちテクノなサントラに乗せて、彼がファイアーウォールを易々と突破する姿に、プログラマーとしての天才が垣間見えて行く。
かくして物語は、世界最大のソーシャル・ネットワーク・サービス「Facebook」がいかに誕生し、瞬く間にユーザー数を獲得していったかが語られていくんだが、そこにアメリカン・ドリーム的な高揚感はない。
『ソーシャル・ネットワーク』は、勝利者のいないサクセス・ストーリーだ。もしくは、成功のカタルシスが発動しない青春映画と言い換えてもいい。
何せ映画は、「俺らが考えていたSNSのネタをパクりやがった!」と激高するイケメン・ブラザーズことウィンクルボス兄弟と、「大学時代からの友人なのに俺を重役を降ろしやがって!」と逆上する共同創業者エドゥアルド(アンドリュー・ガーフィールド)から訴訟裁判を起こされ、ザッカーバーグが当時を回想するという形式で綴られて行くのだ。
ナイフのように鋭利な頭脳と即決即断の行動力で、次々とアイディアを具現化していくザッカーバーグ。共同設立者として辣腕をふるおうとするも、全て空回りしてしまうエドゥアルド。
「パーティーを11時でお開きにするのはクールじゃないぜ」と、バブリーなセリフを事も無げに語ってしまうショーン・パーカー(ジャスティン・ティンバーレイク)。我々は、彼ら誰一人共感することができない。
ただ僕たちは、物凄い早さで拡大していくネットベンチャー・パーティーを“クールに”見守ることしかできない。過去のフィルモグラフィーと同じくシニカリズム全開のデヴィッド・フィンチャーの語り口は、登場人物に感情移入できる余地すら与えないのだ。
「題材は現代的だが、友情や裏切り、嫉妬といったシェークスピアが書いていたようなテーマがてんこ盛りで、私はそこに惹かれた」と、脚本を手がけたアーロン・ソーキンはインタビューで発言している。
なるほど、確かに『ソーシャル・ネットワーク』は古典的なドラマツルギーに支えられた映画だ。お話の基本構造なんぞ、ほとんどオーソン・ウェルズの『市民ケーン』だったりする。しかし、マネーゲームに奔走する若者たちの狂想曲は、極めて現代的な孤独と欺瞞に満ちている。
いくらでもジュブナイル的ストーリーに膨らませられる素材であるにも関わらず、ザッカーバーグをはじめ主要登場人物は誰一人成長しない!という事実が、極めて現代的とも言えるだろう。
前述の三池崇史は、「映画としては、繋がろうとしている人間が自分の孤独を自覚するという部分で怖さやグロテスクさを感じた。ジャンルとしてはホラーに近い」と総括としているが、これまた正鵠を射るご発言!!
ザッカーバーグが無表情にF5キーを押し続けるラストカットには、ホラームービーにも近接した「現代的な悲劇」が提示されている。
- 原題/The Social Network
- 製作年/2010年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/ 121分
- 監督/デヴィッド・フィンチャー
- 製作/スコット・ルーディン、デイナ・ブルネッティ、マイケル・デ・ルカ、セアン・チャフィン
- 製作総指揮/ケヴィン・スペイシー
- 原作/ベン・メズリック
- 脚本/アーロン・ソーキン
- 撮影/ジェフ・クローネンウェス
- プロダクションデザイン/ドナルド・グレアム・バート
- 衣装/ジャクリーン・ウェスト
- 編集/アンガス・ウォール、カーク・バクスター
- 音楽/トレント・レズナー、アッティカス・ロス
- ジェシー・アイゼンバーグ
- アンドリュー・ガーフィールド
- ジャスティン・ティンバーレイク
- アーミー・ハマー
- ジョゼフ・マゼロ
- ラシダ・ジョーンズ
- マックス・ミンゲラ
- ブレンダ・ソング
- ルーニー・マーラ
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