3バカトリオがのたうちまわる、デヴィッド・フィンチャー版『ホーム・アローン』
『ファイト・クラブ』(1999年)のレビューでも書いたが、デヴィッド・フィンチャーはハリウッド・メジャーらしからぬパンク・スピリットをスクリーンに叩き付ける、愛すべきクソッタレ野郎なのである。それでいて、集客能力も高い希有な映画作家である彼は、まさにハリウッド屈指の“オルタナティヴ・フィルムメーカー”なのだ。
『北北西に進路を取れ』(1959年)を彷佛とさせるタイトル・デザインにも顕著なように、明らかにアルフレッド・ヒッチコックを意識した『パニック・ルーム』は、いわば彼の職業作家としての資質が問われる作品。閉鎖的空間で進行するドラマは、それゆえに的確な演出力が要求される。
ピック片手にエレキ・ギターをかき鳴らしてきた彼だが、今回は右手にタクト棒を持ち替えて、王道な演出に挑んだという訳だ。しかし結論から言えば、彼自身のタクトさばきはある程度評価できるものの、映画自体は様々な問題と矛盾を抱えた作品であると言わざるを得ない。
何せこの映画、サスペンス・スリラーなのにち~~~っとも怖くない。なまじパニック・ルームを難攻不落のシェルターという設定にしてしまったが為に、観客はジョディ・フォスター母子に降り掛かる危機を安心して鑑賞できちゃうのだ。うーむ、完全にプロットのミスなんじゃないかコレ。
製作サイドもそれはある程度感じていたのか、「外で携帯電話が鳴っている!取りに行って助けを求めなきゃ!」とか、「娘が糖尿病を患ってるの!ブドウ糖の注射を打たないと死んじゃう!」とか、あれやこれやの手を使ってジョディ・フォスターをパニック・ルームから追い出すシチュエーションは一応作っているんだが、どれも危機的状況を造り出すには至らず。
さらには3バカトリオの一人、フォレスト・ウィテッカーを真っ当な善人キャラにしてしまったが為に、ヒリヒリすような緊迫感もだいぶ中和されてしまった。ハリウッドきっての売れっ子脚本家デヴィッド・コープの、これは明らかに作戦ミスだろう。
よく考えたらこの映画って、『ホーム・アローン』(1990年)の設定に激似なんだよね。劇中のセリフにもジョー・ペシという固有名詞が出てくるし。悪党3人組が揃いも揃っておバカなのもこれを踏襲したからか?
デヴィッド・フィンチャー版『ホーム・アローン』というスタンスで観れば、新しい発見があるかもしれないです。
《補足》
クレジットには出ていないが、ジョディ・フォスターの旦那のガールフレンドとして登場する電話の声の主は、実はニコール・キッドマンである。
本来『パニック・ルーム』は彼女が主演する予定だったんだが、『ムーラン・ルージュ』の撮影中に怪我をしたために降板。思いがけない形でサプライズ出演することになったそうな。
- 原題/Panic Room
- 製作年/2002年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/113分
- 監督/デヴィッド・フィンチャー
- 製作/ギャヴィン・ポローネ、ジュディ・ホフランド、デヴィッド・コープ、シーアン・チャフィン
- 脚本/デヴィッド・コープ
- 撮影/コンラッド・ダブリュー・ホール、ダリウス・コンジ
- 音楽/ハワード・ショア
- 美術/アーサー・マックス
- ジョディ・フォスター
- フォレスト・ウィテカー
- ドワイト・ヨーカム
- ジャレッド・レト
- クリステン・スチュワート
- パトリック・ボーショウ
- イアン・ブキャナン
- アン・マグナソン
- アンドリュー・ケビン・ウォーカー
- ポール・シュルツ
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