民主党のプロパガンダ映画とでもいうべき、ロバート・レッドフォードの政見放送
はっきりいってこの『大いなる陰謀』(2007年)、民主党のプロパガンダ映画である。
ワシントンの執務室、アフガニスタンの戦地、カリフォルニア大学の研究室を舞台に、カットバックで繋ぐ構成なのだが、基本的には熱烈な民主党支持者であるロバート・レッドフォードの独演会が続き、「無関心でいることの愚かさ」、「国政に参加することの重要さ」が延々と説かれるだけ。
「観るものに思考を促す」というご大層なお題目を唱えている割には、イデオロギッシュなメッセージが独善的すぎやしないかい。
『モンタナの風に抱かれて』(1998年)を除いて、これまで自身の監督作品には出演することはなかったレッドフォードだが、本作ではカリフォルニア大学の歴史学教授を、思い入れたっぷりに熱演。
これって要は「自分がロバート・レッドフォードであることの有効性」を活用したかったからか。己をスクリーンに現出させることによって、メッセージの伝播性を高めようとする戦略だったからか。
だとすれば、この作品は天地神明にかけて社会派ドラマなどではなく、単なるレッドフォードの政見放送にすぎない。
「若者の才能と将来性を見いだすことに喜びを感じる」という教授のキャラ設定も、若い映画作家の発掘と育成を目的として、サンダンス・インスティテュートを設立したレッドフォード自身そのまんま。
アメリカ国民を啓蒙・啓発する手段として、なるほど映画は有効なメディアだろう。しかし、それを「教授と生徒との対話」という、陳腐すぎる図式によって収めてしまうのは、ちょっと能がない。
野心家の若手上院議員(トム・クルーズ)と、ベテラン・ジャーナリスト(メリル・ストリープ)の対話も、単なるコンサバ対リベラルの凡庸な論戦に陥ってしまっている、
獅子(戦場の兵士)が羊(無能な政治家)のために犠牲になっているという皮肉(原題の『Lions for Lambs』のモチーフになっている)も、使い古されてきたフレーズの感があり。全てはおざなりなのだ。
ロバート・レッドフォード、トム・クルーズ、メリル・ストリープという超豪華キャストを揃えたにも関わらず、アメリカでの興行収入は惨敗だったらしい。
オバマ対ヒラリーの大統領予備選が熱を帯びている時に、イラク戦争の問題を扱うというのは、ビミョーに上映のタイミングを逸してしまった感はぬぐえないが、そもそも本作の興行的失敗は、レッドフォードのカリスマ性の失墜に起因してると思う。
はからずも映画内で、「10~15年前までは生徒は自分の言うことを聞いてくれた」と述懐するセリフがあるが、もはや彼はハリウッドのリビング・デッドと化してしまい、その実効性が薄れていることを証明してしまった。
日本でも、新春第2弾の予定が延びてゴールデンウィークに公開が回されちゃったりするなど、かなり悲惨な扱いを受けている本作だが、そもそも『大いなる陰謀』というタイトルが良ろしくないと思う。
ここまで内容と的外れな邦題なのも珍しい。だってこれ、軍事上の作戦であって陰謀じゃないもんね。
- 原題/Lions for Lambs
- 製作年/2007年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/92分
- 監督/ロバート・レッドフォード
- 脚本/ マシュー・マイケル・カーナハン
- 製作/ロバート・レッドフォード、トレイシー・ファルコ、マシュー・マイケル・カーナハン、アンドリュー・ハウプトマン
- 製作総指揮/トム・クルーズ、ポーラ・ワグナー、ダニエル・ルピ
- 撮影/フィリップ・ルースロ
- 編集/ジョー・ハッシング
- 音楽/マーク・アイシャム
- トム・クルーズ
- ロバート・レッドフォード
- メリル・ストリープ
- ピーター・バーグ
- マイケル・ペーニャ
- アンドリュー・ガーフィールド
- ケヴィン・ダン
- デレク・ルーク
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