天使と悪魔/ロン・ハワード

天使と悪魔 スペシャル・エディション(1枚組) [Blu-ray]

『ダ・ヴィンチ・コード』よりもはるかに映画的愉悦に満ちた、リアルタイム・サスペンス

前作『ダ・ヴィンチ・コード』(2005年)のレビューで筆者は、

鑑賞者の理解力にはおかまいなしに、時間経過によって物語を転がしていかなくてはならない”映画”というフォーマットで、原作の膨大な情報量をどのように詰め込んでいくのかが、『ダ・ヴィンチ・コード』最大の難問だった。しかし、そんなのどうしたって負け戦に決まっている

と書いたが、『天使と悪魔』は、そーゆー意味で前作よりもアドバンテージを有している。実際原作を読んだときにも思ったが、筋立て自体が非常に映画的なのだ。つまり、

  1. 次期ローマ教皇の最有力候補である枢機卿4人が誘拐される
  2. 秘密結社イルミナティから、1時間ごとに枢機卿を殺害するという予告が届く
  3. 枢機卿が全員殺害された後は、「核エネルギーをも凌駕する反物質を使って、ヴァチカン全体が爆破される

という状況がまず提示され、我らがロバート・ラングドン教授ことトム・ハンクスは、

  1. 科学の四大元素である土、空気、火、水に関連した場所で枢機卿が殺害されると予想
  2. イルミナティが指定した殺害時間までにその場所を特定し、先回りして事件を防ごうとする

という時限プロットが物語の中核になっている。確かにキリスト教や西洋史に疎いと、「なぜトム・ハンクスはこの場所で次の殺人事件が起きると予想したのか」という理由がわかりにくい(原作を読んだはずの僕でさえそうでした)。

しかしペダンティックな知識の洪水に溺れそうになる『ダ・ヴィンチ・コード』と比べると、時間制限というリアルタイム・サスペンス的な要素が付加された『天使と悪魔』は、はるかに映画としての躍動感、ダイナミズムに溢れているように思う。

あまりに原作に忠実すぎた『ダ・ヴィンチ・コード』よりも、この『天使と悪魔』は脚本に大幅な改変を加えており、特に登場人物を思い切って削減してうまく2時間の尺におさめようとしている。

不満を言えば、ヒロインのヴィットリア・ヴェトラ役を演じた、イスラエル人女優アイェレット・ゾラーの見せ場が少なかったことか。なんてったって、原作の最後で彼女は「ヨーガの達人とベッドを共にした経験もないでしょ?」というすごいセリフを吐いているのですよ。

まあこのお話、そんなお色気に走る時間的余裕は皆無なんですが。

DATA
  • 原題/Angels & Demons
  • 製作年/2009年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/138分
STAFF
  • 監督/ロン・ハワード
  • 脚本/デヴィット・コープ、アキヴァ・ゴールズマン
  • 製作/ブライアン・グレイザー、ロン・ハワード、ジョン・コーリー
  • 原案/ダン・ブラウン
  • 製作総指揮/トッド・ハロウェル、ダン・ブラウン
  • 撮影/サルヴァトーレ・トチノ
  • 美術/アラン・キャメロン
  • 編集/ダニエル・P・ハンリー、マイク・ヒル
  • 視覚効果/アンガス・ビッカートン
  • 衣装/ダニエル・オーランディ
  • 共同製作/キャスリーン・マクギル、ルイザ・ヴェリス、ウィリアム・M・コナー
  • 音楽/ハンス・ジマー
CAST
  • トム・ハンクス
  • ユアン・マクレガー
  • アイェレット・ゾラー
  • ステラン・スカルスガルド
  • ピエルフランチェスコ・ファビーノ
  • ニコライ・リー・カース
  • アーミン・ミューラー=スタール
  • トゥーレ・リントハート

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