ジョン・フォード的なアメリカ映画の記憶を詰めた、トム・クルーズ主演のスペクタキュラー
トム・クルーズとニコール・キッドマンは、現実の二人の関係を映画というメディアに照射してきた珍しいカップルと言える。
『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)はまだ付き合う前の初々しい二人が拝めるし、『遥かなる大地へ』(1992年)は’90年のクリスマス・イヴに結婚したばかりの蜜月状態が伺い知れるし、『アイズ・ワイド・シャット』(1999年)は倦怠期を迎えてトムに浮気心が芽生える展開が実にヴィヴィッドだった(トムはこのあとペネロペ・クルスとの交際を公にし、キッドマンと離婚する)。
ロン・ハワード監督は、『遥かなる大地へ』を「二人のハネムーン・プロジェクト」と語ったそうだが、この映画には二人が最もアツアツだった時期が、そのままフィルムに焼き付いている。
また『遥かなる大地へ』には、『駅馬車』(1939年)や『荒野の決闘』(1946年)といった、ジョン・フォード的なアメリカ映画の記憶もふんだんに詰まっている。
19世紀末、貧しい小作農の青年が夢を抱いてアイルランドからアメリカに渡り、ランドラッシュで沸き立つオクラホマ州のホース・レースに参加するというストーリー・ライン、そして何よりも血気盛んなアイルランド人が主人公に据えられているという事実が、誇り高きアイリッシュ系だったジョン・フォードのパワフルなフィルモグラフィーと激しく共振。
クライマックスのホース・レースなんぞ、大規模なロケ撮影といい、スローモーションの多用といい、「That’s アメリカ映画!」という趣きだ。
ロン・ハワードの企みは、アメリカ最良のカップルを主演に据えて、アメリカ最良の映画を現代に再現しようとしたことにある(スタンリー・キューブリックが後年、二人を主演に据えて夫婦の倦怠をあからさまに描こうとしたのとは、好対照だ)。大型映画館のスクリーンを最大に広げて上映される70mmフィルムをロン・ハワードが選択したのは、その意気込みの表れだろう。
ちなみに、35mmのブロウアップではなく、純粋な70mmフィルム映画としてはこの『遥なる大地へ』がデヴィッド・リーンの『ライアンの娘』(1970年)以来とのこと。大画面で展開されるスペクタキュラー映画は、長らく空位の時代が続いたのだ。
トム・クルーズ自身も、曽祖父をアイルランド移民に持つアイルランド系アメリカ人であるからして、このプロジェクトへの参加は並々ならぬ決意だったが、興行的にはふるわず、今日に至るまで作品の評価もあまり高くないようである。
しかし個人的には、ロン・ハワードのフロンティア・スピリット溢れる作劇術が映画の隅々にまで行き渡った佳作だと思っております。エンヤの主題歌も良かったしね。
- 原題/Far and Away
- 製作年/1992年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/140分
- 監督/ロン・ハワード
- 製作/ブライアン・グレイザー、ロン・ハワード
- 製作総指揮/トッド・ハロウェル
- 原案/ボブ・ドルマン、ロン・ハワード
- 脚本/ボブ・ドルマン
- 撮影/ミカエル・サロモン
- 音楽/ジョン・ウィリアムス
- 美術/ジャック・T・コリンズ、アラン・キャメロン
- 編集/ダニエル・ハンリー、マイケル・ヒル
- トム・クルーズ
- ニコール・キッドマン
- トーマス・ギブソン
- ロバート・プロスキー
- コルム・ミーニー
- バーバラ・バブコック
- シリル・キューザック
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