手札を惜しみなく投入した結果、全部が中途半端になってしまった残念作
映画ファンの風上にもおけず、小生はクロード・ルルーシュの世界的名作『男と女』(1988年)を40を過ぎるまで観たことがなかった。
あの「ダ・バ・ダ・バ・ダ…」という有名な主題歌を聴くたびにどこかムズガユイ気持ちがして、敬遠していたのだが、主演にジャン・ポール・ベルモンドを迎えて撮った『ライオンと呼ばれた男』で、僕はついにルルーシュ童貞を切ることになった。
幼くして母に捨てられたトム・リオン(ジャン・ポール・ベルモンド)は、サーカス団に拾われてショウビズの世界に身を投じるものの、不測の事故でサーカス団員から清掃係に回されてしまう。
やがて清掃業の実業家として成功をおさめた彼は、突然ヨットで大西洋に出航して消息をたち、家族・仕事全てを投げ出して勝手気ままな第二の人生を送り始める。
やがて彼の清掃会社で働いていた経験をもつ青年アル(リシャール・アンコニナ)に自分の正体を看破されてしまうが、その純朴な性格に惹かれ、大きく傾きかけていた会社を立て直すべく、アルを自らの操り人形として送り出す。
トムの助言を忠実に守ったアルの努力で会社は再び軌道に乗り始めたが、今度はサムの愛娘であるヴィクトリア(マリー・ソフィー・L)がアルに恋をしてしまい…。
と、2時間強という尺のなかで語られるエピソードはてんこ盛り。ひとつひとつのエピソードは興味深く、鑑賞しているあいだ飽きることはないが、ルルーシュは被写体のバストショットと横パンを繰り返すものだから、どうにも構図が安定せず。
矢継ぎ早に物語が進行するスピーディーなテンポではあるのだが、構図が安定しないので場面の定着性がなく、定着性がないのでキャラクターへの掘り下げが浅くなり、結果サム・レオンという男の内面に観客がアクセスできないという事態を招いている。
大きな場面転換になると、必ずフェルナンド・レイによる甘いバラードを登場人物に歌わせるという謎ルールが敷かれており、てっきりミュージカル仕立ての映画なのかと思いきや、別にそういうことでもなく、これも戦略的にもあまり功を奏しているとは思えず。
サムの思い出の赤いジャケットとか、レオンという名前はライオンにちなんでいるとか、長女は完全にファザコンであるとか、長男がゲイらしいとか、手札はたくさんあるんだけど、全てを惜しみなく投入した結果、全部が中途半端になってしまった。
明らかに傑作に成り得る予感はする映画なだけに、かえすがえすも残念です。
- 原題/Itineraire D’un Enfant Gate
- 製作年/1988年
- 製作国/フランス、ドイツ
- 上映時間/127分
- 監督/クロード・ルルーシュ
- 製作/クロード・ルルーシュ、ジャン・ポール・ベルモンド
- 脚本/クロード・ルルーシュ
- 撮影/ジャン・イヴ・ル・メネール
- 音楽/フランシス・レイ
- ジャン・ポール・ベルモンド
- リシャール・アンコニナ
- マリー・ソフィー・L
- ダニエル・ジェラン
- リオ
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