アメリカ人男性とフランス人女性がウィーンの街でくりなす、わずか14時間のランデブー
親愛なるジュリー・デルピー様
初めてお手紙を書きます。小生の名前は竹島ルイといいます。ルイという名前はフランス風ですが、生粋の日本人です。
貴女の主演作『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(1995年)を拝見して、今この手紙をしたためています。この映画における貴女がいかに素晴らしいかを伝えたくて、ペンをとりました。少し長文となりますが、ご容赦ください。
列車で偶然に出会ったアメリカ人男性とフランス人女性が、美しいウィーンの街でわずか14時間のランデブー(死語)を楽しむというこの映画で、貴女はソルボンヌ大学に通うセリーヌという女学生を演じていらっしゃいます。
ほぼ全編が、貴女とイーサン・ホークの会話で成り立っており、まるで二人の会話を覗き見しているかのような、否、まるで小生と貴女が会話をしているかのような錯覚にとらわれます。
墓地で、遊園地で、バーで、クラブで、夜の公園で、貴女はとりとめもなく、しかしながらこれ以上ないほどにチャーミングな語り口で、夢や将来や恋愛観を語ります。
貴女の流暢な英語は、やたら抑揚をつけようとするイングリッシュ・ネイティヴ・スピーカーのように猛々しくなく、まるでベルベットのように柔らかで、いつまでも貴女の口から他愛の話を聞いていたい…そんな気持ちにかられてしまいます。
この映画ではいわゆる劇伴は一切使われておらず、街の喧噪、教会の鐘の音、部屋の片隅で奏でられるハプシコードがBGMとなっています。
二人の間に少しずつ恋の波紋のようなものが広がって行って、凝固し、結実していく様子をヴィヴィッドに捉えるには、生半可なスコアなぞ必要ないのでしょう。敢えて言うならば、貴女が口にする一言一言が小生にとっては音楽そのものです。
レコードショップの視聴室で、Kath Bloomの『Come Here』を聴きながら恥ずかしそうにイーサン・ホークを見つめて微笑む貴女、観覧車で不意に彼に腕を回す貴女、柔らかなウェーブの髪の毛を後ろで結わえる貴女、彼の膝の上で幸せそうに微睡む貴女、アメリカ人男性の真似をして電話に出る貴女。
嗚呼、その全てが魅力的です。決して正統派美人ではない(失礼)貴女に、ここまで私が恋焦がれてしまったのは、知的な瞳を輝かせながらも、不意に小動物のような屈託のない表情を見せてくれるからに相違ありません。
半年後に逢おうと誓い合ったイーサン・ホークと別れて列車に乗り込んだ後、貴女は彼に一瞥をくれるだけで、さっさと車両に移動してしまいます。妙にベタベタしないこのドライさも貴女の魅力でしょう。
それとも、この恋は一日だけのものだと確信していらっしゃるのでしょうか?小生には皆目見当つきません。貴女自身語っている通り、「女の行動は謎」です。
長文、失礼いたしました。くれぐれもお体にはくれぐれもご自愛ください。貴女の今後の活躍を祈っております。小生はこれから、続編の『ビフォア・サンセット』(2004年)のDVDを借りにTSUTAYAに行って参ります。
草々
- 原題/Before Sunrise
- 製作年/1995年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/105分
- 監督/リチャード・リンクレイター
- 製作/アン・ウォーカー・マクベイ
- 製作総指揮/ジョン・スロス
- 脚本/リチャード・リンクレイター、キム・クリザン
- 撮影/リー・ダニエル
- 編集/サンドラ・エイデアー
- イーサン・ホーク
- ジュリー・デルピー
- アーニ・マンゴールド
- ドミニク・キャステル
- ハイモン・マリア・バッテンガー
- アンドレア・エッカート
- ハンナ・ポシ
最近のコメント