チャイニーズ・マフィア VS. ニューヨーク警察。血で血を洗うようなバイオレンス・ムービー
総額4400万ドルという、天文学的巨費を投じた『天国の門』(1980年)が、歴史的な興行赤字を記録。製作会社ユナイテッド・アーティスツを倒産に追い込んでしまうという、文字通り映画災害を引き起こしてしまった、マイケル・チミノ。
『ディア・ハンター』(1978年)で、アカデミー監督賞を受賞した輝かしいキャリアに払拭しようのない汚点を残してしまい、以後彼はハリウッドから完全に干されてしまう。
そんなマイケル・チミノに救いの手を伸ばしたのが、イタリア人のディノ・デ・ラウレンティス。『戦争と平和』(1956年)、『天地創造』(1966年)、『デューン/砂の惑星』(1984年)など、数多くの大作映画を手がけてきたこの大物プロデューサーは、元ニューヨーク市警刑事ロバート・デイリーによる小説『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(1985年)の監督をチミノに依頼する。
かくして完成したのは、チャイニーズ・マフィアとニューヨーク警察による、血で血を洗うバイオレンス・ムービー。
しかしマイケル・チミノは、この作品でも大きな間違いを犯してしまう。『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』はバイオレンス映画であると同時に、超大国アメリカの生々しい症例報告でもあったはずだが、それが致命的に機能していない。
マイケル・チミノと共同で脚本を手がけているオリバー・ストーンが、この映画にそっと忍ばせた症例報告、それは急速な発展を遂げているアジアン・パワーに対抗しえず、未だベトナムの敗戦から立ち直ることすら出来ない、慢性的神経症に悩むアメリカの現実である。
事実、本作の主人公を演じるミッキー・ロークは、ベトナム帰りのポーランド系刑事という設定で、“敗戦”という受け入れ難い現実に直面したため、結果的にアジア人に対して理不尽なほどに人種差別意識を持ってしまうという、甚だ困った人物として描かれる。
「あんたたち白人がまだ野蛮だった頃、俺たち中国人は、すでに船でアメリカに行くほどの文明を身につけていたんだ」とは中国系刑事のセリフだが、ミッキー・ロークはそれを苦々しく聞き流すのみ。
彼をチャイニーズ・マフィア撲滅に駆り立てるのは、真っ当な正義感などではなく、激しい黄色人憎悪なのだ。彼にとってニューヨークは新しい“ベトナム”なのであり、戦争の最前線なのである。
狂った国の狂った街で描かれる、狂った男たちの物語。『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』はそのように描かれるべき物語だった。しかしマイケル・チミノは、『ブレード・ランナー』(1982年)的な映像パラダイムに支配されたオリエンタル・ムードの醸成に腐心するあまり、その核をほとんど無視するような形で映画を作り上げてしまっている。
おまけに、どうにもマイケル・チミノは音楽センスが致命的に悪いらしく、『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』では明らかにオリエンタルな映像世界と戦意高揚的な音楽がコンフリクトを起こしている。
『天国の門』でも、役者のセリフが音楽とかぶってしまって聞き取りづらいという蛮行を犯しているが、映像作家としてこれはいかがなものかいな。
- 原題/Year of the Dragon
- 製作年/1985年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/134分
- 監督/マイケル・チミノ
- 製作/ディノ・デ・ラウレンティス
- 原作/ロバート・デイリー
- 脚本/オリバー・ストーン、マイケル・チミノ
- 撮影/アレックス・トムソン
- 音楽/デイヴィッド・マンスフィールド
- 美術/ウォルフ・クレーガー、ヴィクトリア・ポール
- 編集/フランソワーズ・ボノー
- ミッキー・ローク
- ジョン・ローン
- アリアンヌ
- レナード・テルモ
- レイ・バリー
- カロライン・カバ
- エディ・ジョーンズ
- ジョーイ・チン
- ヴィクター・ウォン
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