ジェームズ・キャメロンが名実ともに”King Of The World”へと上り詰めた、ラブ・ロマンス大作
問答無用、天下御免。泣く子も黙る『タイタニック』(1997年)である。ジェームズ・キャメロンの狙いは、タイタニック船上での『ロミオとジュリエット』だ。もしくは、ロマンチックな『ポセイドン・アドベンチャー』というべきか。
ハリウッドきっての戦略家であるジェームズ・キャメロンは、実在の歴史的事件とハーレクインばりの恋愛劇をミックスさせるという、優れたマーケティング判断を働かせた。
その策略通り、『タイタニック』は映画史に残る大ヒット。そして世の女性諸君は皆大泣き状態。まるでこの映画で泣けない人はニンゲンではないぐらいの勢いで、『タイタニック』の素晴らしさを手ぶり身ぶりで語ってくれた人もいたものだ。
だが面白いのは、男性諸君で『タイタニック』を手放しで誉めたたえる人はいなかったという事実である。この映画に対する、男女間での評価の較差はどーゆーことだ?
おそらく、女性諸君にとっては充分満足できるラブストーリーだったが、男性諸君にとっては不満の残るパニック映画だったということか。
ジェームズ・キャメロンの過去の作品では、善悪のキャラクターは記号化され、物語はオーソドックスで普遍的な構造を持つ。『タイタニック』でもその本質は何ら変わらない。
エンターテイメントとは、ドラマを構成するファクターが黄金比率のごとく周到なバランスの上で成立していることにある。『トゥルー・ライズ』(1997年)では、「笑い」の要素を意図的に組み換えていたが、『タイタニック』では「涙」の要素を大さじ一杯ぶん押し出した。
タイタニック号から奇跡的な生還を果たしたローズの視点から描かれる物語は、時空を飛び越えて永久不変の愛のドラマを形成する。今や年老いた老婆となった彼女から語られる真実、その「大河な感じ」がとてつもなく普遍的なのだ。
豪華客船の沈没という異常な状況のなか、人間はいかにしてサバイバルできるのか。人間の持つ強さ、弱さ、エゴ、欲望が、このタイタニック号に充満する。どうしたって重くなりがちのこの映画をエンタメさせるには、人間ドラマを掘り下げてチマチマ描いているヒマはない。
ディカプリオのステレオタイプなヒーローぶりも、ケート・ウィンスレットのヒステリックなわがまま娘ぶりも、ビリー・ゼインの半ストーカー的な悪玉ぶりも、全てが画一的な人物造型。
しかし、これはこれでいーのだ。『タイタニック』は悲痛なパニック映画である前に悲恋のラブストーリーなんであるからして、濃厚な群集劇にしてしまってはリアルすぎて泣けないのである。このあたりが、ジェームズ・キャメロンのエンターテイメント作家としての用意周到な計算だ。
セリーヌ・ディオンの歌う主題歌『My Heart Will Go On』はスーパーヒットを記録し、今やラブソングの定番。女性諸君はこの曲を聴くたびにタイタニックの名シーンの数々を思いだし、目に涙を浮かべてウルウルしてしまうのだろう。
そしてその涙の数だけ、ジェームズ・キャメロンはビバリーヒルズの豪華邸宅で、薄笑いを浮かべながら高級ワインを飲み干すのである。映画のセリフ通り、彼はハリウッドの「King Of The World」になったのだから。
- 原題/Titanic
- 製作年/1997年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/189分
- 監督/ジェームズ・キャメロン
- 脚本/ジェームズ・キャメロン
- 製作/ジェームズ・キャメロン、ジョン・ランドー
- 脚本/リチャード・A・ハリス、コンラッド・バフ
- 撮影/ラッセル・カーペンター
- 音楽/ジェームズ・ホーナー
- 美術/ピーター・ラモント
- 編集/ジェームズ・キャメロン、コンラッド・バフ、リチャード・A・ハリス
- レオナルド・ディカプリオ
- ケイト・ウィンスレット
- ビリー・ゼイン
- キャシー・ベイツ
- フランシス・フィッシャー
- ビル・パクストン
- バーナード・ヒル
- ジョナサン・ハイド
- ヴィクター・ガーバー
- デヴィッド・ワーナー
- ダニー・ヌッチ
- ジャネット・ゴールドスタイン
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