強欲ゲッコーが復活する、金融映画PART2
前作『ウォール街』(1987年)から23年の時を経て製作された続編が、この『ウォール・ストリート』(2010年)。
思えば1987年には、下落率22.6%と株価が大暴落したブラック・マンデーが起きたが、2010年公開時には、サブプライムローン問題を端を発する金融危機のショックがまだ世界を覆っていた。オリバー・ストーンは世界恐慌のタイミングを狙ってこの映画を撮ってるのかいな。
「強欲は善」というセリフが衝撃的だった1987年と比較すれば、ゲッコー(マイケル・ダグラス)的な倫理観は今やデファクト・スタンダード。
そういう意味では、ゲッコーの人物造型をもう一度ひっくり返して、「人生で一番大切なものは家族」という青臭い道徳観を上位概念に据えたのは、なかなか面白いアプローチかと。ま、その倫理観も最後の最後でまたひっくり返されて、強欲ゲッコー復活!となる訳ですが。
個人的にはこの映画、オリバー・ストーンの演出の巧みさに感心しきり。冒頭のゲッコーの出所シーンにしても、ドでかい旧世代の携帯電話が返却されることでそれが長い服役であったことを示唆しているし、晴れて刑務所から出てきても誰も迎えにこないことで彼の孤独が浮き彫りになる。
前作に引き続き会話シーンをスプリット・スクリーンを多用して臨場感を持たせたり、ウォール街でデマが飛び交うシーンを電子空間で表現することで、今日的な経済動向をビジュアライズしているのはサスガだし、株価指数のグラフが摩天楼のシルエットと重なるオープニング・クレジットのセンスも悪くない。
社会派のフィルムメーカーとして認知されているためか、表立ってその映像センスについて語られることの少ないオリバー・ストーンだが、考えてみれば彼は『Uターン』(1997年)や『エニイ・ギブン・サンデー』(1999年)といった諸作でも過剰な映像表現を徹底していた。
お話も映像もアクの強い作家、それがオリバー・ストーン。音楽面でも、個人的にはトーキング・ヘッズを再度主題歌に起用してくれたのは嬉しかった。
難を言うなら、生き馬の目を抜く金融業界に身を置いているにも関わらず、シャイア・ラブーフ演じる主人公ジェイコブが好青年すぎて、ややストーリーが起伏に乏しい結果になってしまったことか。
ゲッコーやブレトン(ジョシュ・ブローリン)との対立軸はあるものの、彼の内面では「甘ったるいヒューマニスト」か「拝金主義的なリアリスト」かで逡巡したりはせず(それは前作のチャーリー・シーンと同様の葛藤なのだが)、一本気な正義感を終始押し通しているので、ドラマとしての相克が生まれてこない。ここはもう少し改変の余地はあったんではないか。
ゲッコーの娘役を演じるキャリー・マリガンの素朴な可愛さは、今後ハリウッドで引っ張りだこになる予感。カメオ出演するだろうと期待していたチャーリー・シーンは、案の定中盤でちょこっとだけ登場していたが、まさかあんなダメ野郎に成り下がっていたとは。
ちょっとやるせないが、これも彼の実生活を引き写した結果ですかね。
- 原題/Wall Street: Money Never Sleeps
- 製作年/2010年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/127分
- 監督/オリバー・ストーン
- 製作/エドワード・R・プレスマン、エリック・コペロフ
- 製作総指揮/セリア・コスタス、アレックス・ヤング、アレサンドロ・キャモン
- 脚本/アラン・ローブ
- 撮影/ロドリゴ・プリエト
- プロダクションデザイン/クリスティ・ズィー
- 衣装/エレン・マイロニック
- 編集/ジュリー・モンロー、デヴィッド・ブレナー
- 音楽/クレイグ・アームストロング
- マイケル・ダグラス
- シャイア・ラブーフ
- ジョシュ・ブローリン
- キャリー・マリガン
- イーライ・ウォラック
- スーザン・サランドン
- フランク・ランジェラ
- オースティン・ペンドルトン
- ヴァネッサ・フェルリト
- マイケル・ジェネット
- ナタリー・モラレス
- シルヴィア・マイルズ
- チャーリー・シーン
最近のコメント