華氏911/マイケル・ムーア

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悪を糾弾する者は正義か。

世界最高権力者であるブッシュを向こうに回し、ビデオカメラ片手に、「ジャーナリスティック・テロリズム」を誘発させるマイケル・ムーア。アホでマヌケなアメリカ白人をアジって、「Dude,Where’s My Country?(おい、ブッシュ、世界を返せ!)」と叫ぶその姿には、確かに胸がすく思いがする。

そうだ、やれ!やれ!やっちまえ!彼は、風車めがけて突進するドン・キホーテだ。真のデモクラシーの代弁者だ。…と、両手を挙げて賛同する気持ちには、僕はなれない。ひっかかる。何かがひっかかる。

ブッシュ米政権を痛烈に批判する映画『華氏911』を製作した米映画監督マイケル・ムーア氏は6日、「より多くの有権者が映画を見られるように、アカデミー賞は狙わないことにした」と宣言。

劇場上映から9カ月以内にテレビ放映された作品は選考対象から外れる規定である同賞をあきらめ、早期のテレビ放映を求める考えを明らかにした。

同氏は自分のウェブサイトにメッセージを掲載した。異例の「ノミネート辞退」は、ブッシュ大統領の再選を阻止したい監督の「大統領選までに全米でテレビ放映させたい」という強い願望が理由。

ムーア氏は「映画を見た人で絶対にブッシュに投票すると答えた人はいない」との共和党系選挙専門家の話を紹介した上で「さらに数百万人が選挙前に映画を見ることが、受賞よりもはるかに重要だ」と断言。

9月5日の新聞に掲載された、記事の抜粋である。映画は、純粋にその映画の面白さで語られるべき、と僕は思っているのだけれども、どうやらこの『華氏911』に関しては違うようだ。

この映画は、ジョージ・W・ブッシュの再選を防ぐためだけに製作されたのであって、まさに“賞味期限付き”の作品なのである。そしてその有効期限は、言うまでもなく大統領選挙が行われる11月2日まで。

『A』や『A2』などの諸作で名高い映画監督の森達也が、「ドキュメンタリーで、結論を簡単に述べてしまうのは危険だ」というような趣旨の発言をしていたが、僕も同感。

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森達也の映画は、常に逡巡している。その葛藤がまざまざとフィルムに刻印され、観るものに沈思黙考を促す。お得意のユーモアを交えつつも、断定口調で映画を展開させていくマイケル・ムーアとはえらい違いである。

それを「方法論の違い」と言ってしまうのは容易いけれども、ドキュメンタリーの本質は「問題を断定すること」ではなく、「問題を提起すること」なのではないか。もちろんいくら客観的な視座を保とうとしても、ドキュメンタリーから主観性を排することは不可能。問題なのは、フィルムを回す者のアチチュードである。

マイケル・ムーアの目論みは、実は最初から破綻している。彼の目的はブッシュ再選を食い止めることだが、それはすなわち大統領選でジョン・ケリーが勝利することを意味する。

しかしムーアは、「ケリーはイラク戦争に賛成の立場をとったので、彼には投票しない」と公言しているのだ。エラい矛盾である。プロバガンダにもなりきれていない。この根本的なジレンマが解消されない限り、「華氏911」の政治的有効度は甚だ低いと言わざるを得ない。

僕がこの稿を書いているのは2004年9月18日で、大統領選挙の結果はまだ分かっていない。この映画の評価は、編集のスキルでも独特のユーモアセンスでもなく、大統領選挙でブッシュが勝つか負けるかにかかっている。政治的判断に評価が依存される映画に対し、作品の内容をあーだこーだ書いてもしょうがないだろう。

ゴダールはこの映画を「ムーアはイメージとテクストを混同している。彼は意識していなくてもある意味でブッシュを助けている。ブッシュは彼が思っているほど馬鹿ではない」と評したらしいが、その結果は乞うご期待である。

DATA
  • 原題/Fahrenheit 9/11
  • 製作年/2004年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/122分
STAFF
  • 監督/マイケル・ムーア
  • 脚本/マイケル・ムーア
  • 製作/マイケル・ムーア、ジェフ・ギブス
  • 音楽/ジェフ・ギブス
CAST
  • マイケル・ムーア
  • ジョージ・W・ブッシュ
  • ドナルド・ラムズフェルド
  • ディック・チェイニー

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