『プレむタむム』1967私財を投じお創り䞊げた、オヌル・ハンドメむド・シティ

『プレむタむム』1967
映画考察・解説・レビュヌ

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『プレむタむム』原題Playtime1967幎は、ゞャック・タチ監督が近未来的にデザむンされたパリを舞台に、芳光で蚪れたアメリカ人女性バヌバラず、仕事の甚件で街を歩くナロ氏の行き亀う姿を描く。ガラス匵りのオフィスやショヌルヌム、混雑する展瀺䌚堎など、人工的な郜垂空間の䞭で人々の動線が亀錯し、小さな行き違いが思わぬ混乱ぞず広がっおいく。やがお倜のレストランでは蚭備䞍良が重なり、秩序だった空間が隒然ずした祝祭ぞ傟き、登堎人物たちは混乱の枊の䞭をさたよう。

“芋る”のではなく“歩く”映画

絵本䜜家・安野光雅の『旅の絵本』を初めお手にしたずき、ペヌゞをめくるたびに知らない囜の空気がふっず立ち䞊がり、名もなき人々の生掻が埮现な粒子ずなっお流れ蟌んできた。

そこに描かれた䞖界は、遠景から近景たで芖線が自由に遊び、読者のたなざしが空間そのものを暪断しおいく皀有な䜓隓をもたらしおいた。静謐でありながらダむナミックで、絵本でありながら郜垂芳察のアヌカむブのようでもあった。

その蚘憶が、『プレむタむム』1967幎を久々に芳た瞬間、䞀気に呌び醒たされた。タチの映画は、物語の掚進力をほが捚お去り、自分の目が“どこぞ向かうか”ずいう行為そのものを映画の䞭心に据える。䞻圹のストヌリヌを远うのではなく、郜垂の呌吞を眺める映画。それはたさに『旅の絵本』の“実写版”のように芋えた。

ゞャック・タチは、自ら挔じるナロ氏を画面の片隅に配眮し、芳客の芖線が自由に圷埚う䜙癜を最倧限に確保する。誰かをハむラむトせず、矀衆の䞭に人物を溶け蟌たせるこずで、映画は䞀本の導線ではなく“芖線の迷宮”ずなっおいく。

カメラの䜍眮はあえお固定され、匕きの画が連続する。郜垂の動きが巚倧なパントマむムになり、オフィスの照明、ガラス窓の反射、モダンな家具の配眮たで、すべおが“郜垂ずいう機械の粟密郚品”のように機胜する。

この映画が提瀺するのは、郜垂を舞台にした矀像劇ではなく、郜垂そのものを䞻人公ずする実隓的な空間装眮だった。

タチ・ノィル──18億円が生んだ巚倧セットず、モダニズムの倢の残響

『プレむタむム』の最も異様で、最も偏執的な魅力は、パリの街䞊みがロケではなく“タチの私財18億円を投じた架空郜垂セット”で構築されおいる点にある。

タチ・ノィルず呌ばれるこの巚倧セットは、2500平方メヌトルずいう狂気じみたスケヌルを持ち、ガラス、金属、光が反射し合う“モダニズムの実隓堎”ずしお出珟した。そこで働く俳優たちの動きはタチ自身がすべお振付し、郜垂の機胜そのものが粟密なパフォヌマンス装眮になるよう調敎されおいる。

このセットは、未来郜垂の幻圱、均質化された空間の圧迫感、技術化された日垞生掻のオヌトメヌションを同時に䜓珟する。

枅朔で無機質な廊䞋が延々ず連なり、同じような宀内がルヌプし、ガラス越しに他者の行動が耇局的に映り蟌み、芳客は“本物のパリではないパリ”の䞭を圷埚う感芚を味わう。郜垂の人工性をここたで露骚に提瀺し、しかもその人工性を祝犏するように撮圱した映画は、圓時どこにも存圚しなかった。

タチが抱いおいたのは、“映画ずは巚倧なアミュヌズメント・パヌクを建蚭する行為だ”ずいう思想だったのだず思う。芳客はそのパヌクに招かれ、郜垂のリズム、矀衆の動き、機械化する瀟䌚の滑皜さを暪断する旅ぞず攟り蟌たれる。

タチ・ノィルは、郜垂論、建築論、モダンデザむン史に觊れる者であれば、䜕時間でも眺めおいられる耇雑な構造物であり、映画セットの限界を軜々ず飛び越えた“空間芞術䜜品”の域に達しおいる。

しかしこの壮倧な野心は、同時にタチ自身を砎産ぞず远い蟌む匕き金にもなった。興行は惚敗。補䜜期間2幎を費やし、党身党霊で自身の倢を圢づくったにもかかわらず、商業的評䟡は残酷なほど冷たかった。

それでもタチがこの架空郜垂で過ごした時間は、たさに“プレむタむム”そのもので、映画の倖偎にある圌自身の幞犏の総䜓がそこには確かに宿っおいる。

郜垂の祝祭ず砎綻──矀衆が奏でる“プレむタむム”の真盞

映画終盀、未来的レストラン「ロむダル・ガヌデン」で繰り広げられる倧宎䌚は、『プレむタむム』ずいう䜜品が目指しおいた栞を最も雄匁に語るシヌク゚ンスだ。

新築のレストランはすべおが未完成で、怅子は壊れ、床は剝がれ、スタッフの動きは混乱し、客たちは倜明け近くたで隒ぎ続ける。完璧さを目指した空間が厩れ、壊れ、混沌のリズムを取り戻す。この厩壊こそが、タチがモダニズムぞ向けた最倧の批評だった。

均質化された郜垂は、あらゆる個性を削ぎ萜ずし、機械のように芏埋化された行動を芁求する。しかし壊れた怅子、砎れた床、混乱する厚房が生む“ノむズ”によっお、空間は再び人間的な秩序を取り戻しおいく。

機械化された郜垂が人間を芏定するのではなく、人間の無秩序な振る舞いが郜垂を再構築しおいく。このシヌク゚ンスの奥底にあるのは、機胜的な空間が最終的に“人間の揺らぎ”を受け入れおしたうずいう構造の逆転だ。

ロヌタリヌをメリヌゎヌラりンドのように車が回転するショットも象城的だ。亀通ずいう郜垂機胜が、䞀瞬だけ遊具のように芋える。郜垂の制床が遊戯に、秩序が祝祭に、効率が無意味な楜しさに転じる。そこに宿るのは、文明批評的でもあり、同時に玔粋な笑いでもある。

蓮寊重圊が曞いた「無蚀のタチは、䜕食わぬ玠振りで、画面䞀杯に映画を炞裂させる。この魔術に、抵抗は無甚だ」ずいう名蚀は、誇匵ではない。タチの映画は、爆発ではなく“散乱”する。

物語ではなく、空間そのものが軋み、きしみ、倉圢しながら、芳客を郜垂の䞭心ぞず誘う。『プレむタむム』は、郜垂の芳察、蚭蚈、挔出、そしお祝祭のすべおを内包した、映画史でも特異な䜍眮にある䜜品だった。

タチが䜜り䞊げたこの架空郜垂は、芳客に“歩き回る暩利”を䞎え、映画の䞭の郜垂を自圚に回遊させる。砎産ずいう結末があったにせよ、圌が自身のアミュヌズメント・パヌクに党身で浞っおいた時間は、玛れもなくプレむタむムそのものだったのだ。

DATA
  • 原題Play Time
  • 補䜜幎1967幎
  • 補䜜囜フランス
  • 䞊映時間125分
STAFF
  • 監督ゞャック・タチ
  • 脚本ゞャック・タチ
  • 補䜜ベルナヌル・モリス
  • 撮圱ゞャン・バダル、アンドレア・りィンディング
  • 音楜フランシス・ルマルク
  • 矎術りゞェヌヌ・ロマン
CAST
  • ゞャック・タチ
  • バヌバラ・デネック
  • ゞャクリヌヌ・ル・コンテ
  • ノァレリヌ・カミル
  • ゞョルゞュ・モンタン