あの『猿の惑星』をティム・バートンが撮る。
彼いわく単なるリメイクではなくてリ・イマジネーションだそうだが、彼のキッチュな資質があの古典的SFとどのように結合するのか。どちらかといえば箱庭的で細部のディティールに懲りまくるバートンに、空間的な広がりを持つSF映画は畑違いに思えて仕方がなかったのだが。
結論からいえば、この作品はティム・バートンの「ハリウッド監督宣言」である。僕には彼のこんな言葉が聞こえてくる。
「俺様は今まで『マーズ・アタック』とか『エド・ウッド』とかオバカな映画ばっかり撮ってきたけど、一部カルト的な歓迎は受けたものの興行的にはサッパリだったんだよな。こんなことじゃプロの映画作家とは言えないぜ。そこで俺様は改心した!とにかくこれからは、配給会社にも喜ばれる『売れる』映画を撮りまくるぜ。マニアにしか受けない映画なんてもうオサラバさ。これからは皆に愛される映画を作っていくぜ!」
…と。まあ実際のところはよく分からんないんだが、B級オバカテイストに溢れたバートン節がすっかり影をひそめているのは事実である。
だいたいティム・バートンという映画作家の本質は、人間の持つダークサイドな部分を増幅させ、ポップなテイストで描いてしまうセンスにある。
バットマンはかつて両親がジョーカーに殺されたという過去を持っていたし、『シザーハンズ』のエドワードは人造人間としての宿命を背負って生まれてきた。ティム・バートンの眼差しはフリークスへの偏愛に満ちているのである。
しかし本編の主人公マーク・ウォールバーグはステレオタイプなヒーローとして描かれ、驚く程人物造型に深みがない。ティム・バートンはキャラクターを掘り下げて世界観を構築していくいつものメソッドではなく、人間対猿という異種間の問題をブラックユーモアとして描くことに専念した。
この二者対立の関係に白人対黒人、キリスト教とイスラム教、現在の世界が抱えるあらゆる問題に当てはめてみることは可能だろうが、アイロニカルな比喩ではなくお座なりな図式になっているのが大いに不満。
この映画の最大の見物は、特殊メーキャップを担当したリック・ベイカーの芸術的なお仕事。役者の表情を殺さず、なおかつ完璧なサル軍団をつくりあげてしまった。ちなみにサル顔ではあるが、主演のマーク・ウォルバーグ君は素の顔である。念のため。
いやに色っぽい美猿(?)のヘレナ・ボナム・カーターや、セード将軍を演じた怪優ティム・ロスの猿っぷりもすごいが、個人的に一番のお気に入りは愛嬌たっぷりのペリグリース君。何てったって、本物のサルだからね。
賢そうだし可愛いから、日光猿軍団に入れてみてはいかが。人気出ると思うぞ。
- 原題/Planet Of The Apes
- 製作年/2001年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/119分
- 監督/ティム・バートン
- 製作/リチャード・D・ザナック
- 製作総指揮/ラルフ・ウィンター
- 原作/ピエール・ブウル
- 脚本/ウィリアム・ブロイルス・ジュニア、ローレンス・コナー、マーク・ローゼンタール
- 音楽/ダニー・エルフマン
- 編集/クリス・リーベンゾン
- 衣装/コリーン・アトウッド
- 美術/リック・ヘインリックス
- 特殊メイク/リック・ベイカー
- マーク・ウォールバーグ
- ティム・ロス
- ヘレナ・ボナム・カーター
- マイケル・クラーク・ダンカン
- エステラ・ウォーレン
- ケリー・ヒロユキ・タガワ
- デヴィッド・ワーナー
- クリス・クリストファーソン
- ポール・ジアマッティ
- グレン・シャディックス
- チャールトン・ヘストン
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