2022/2/6

A Seat at the Table/ソランジュ

プロテスト・ソングとしての意匠をまといながらも、ソランジュのパーソナルな想いが込められた一枚

Destiny’s Child時代から現在に至るまで、ビヨンセは完全無欠なスーパースターとして君臨してきた。

アッパーでパワフルなR&Bサウンドは、ややもすれば少しいなたい、オーセンティックな音楽にも聴こえてしまうきらいはあったが、それ故に彼女は絶大なるポピュラリティーを獲得してきたんである。

だが、6thアルバムとなる『Lemonade』(2016年)において、ビヨンセはトレンドセッターとしての先鋭的なサウンドを鳴らし始めた。

The Weeknd、ジャック・ホワイト、ジェイムス・ブレイク、ケンドリック・ラマーなど、各界から“イケてる”アーティストたちを召喚して、自らが絶対的クイーンであることを改めて証明してみせたんである。

Point
『Lemonade』(ビヨンセ)

そして同時に『Lemonade』は、Black Lives Matterのムーヴメントに呼応して、黒人女性としての誇りを高らかに歌い上げたプロテスト・ミュージックでもあった。

ビヨンセはもはや単なるディーヴァではなく、ポリティカルなメッセージを叩きつける“闘士”となったのである(スーパーボウルのハーフタイムショーで、彼女がブラックパンサー党のトレードマークでもある“黒いベレー帽”をかぶってパフォーマンスをしたことは、記憶に新しい)。

そして、同じ2016年。ビヨンセの妹ソランジュが、3rdアルバム『A Seat at the Table』(2016年)をリリースする。

圧倒的知名度を誇る姉と比べて、ソランジュは常に陰のような存在だった。キャリアの初期には、ティンバーランド系のファンク・ミュージックを歌っていたが、批評的にも興行的にも、ビヨンセとは同列で語られることはなかったように思う。

だが、しかし。『A Seat at the Table』は、間違いなく『Lemonade』をも上回る名盤である(断言)。その証拠に、音楽メディアの「NPR Music」は年間ベストでビヨンセを2位、ソランジュを1位に選出しているのだ。

ちなみにローリングストーン誌は、ビヨンセを1位に、ソランジュを11位にしていたが、笑止千万!筆者は断然妹のソランジュ推しであります。

『A Seat at the Table』の共同プロデューサーを務めたのは、ラファエル・サーディク。若くしてその才能をプリンスに認められ、メイシー・グレイ、ディアンジェロ、ザ・ルーツ、スヌープ・ドッグといった錚々たるアーティストに曲を提供した才人だ。

ラファエル・サーディクとソランジュは、ネオソウルの文脈にのっとりながらも、エレクトロ・ミュージックやスムーズ・ジャズのスパイスを絶妙にブレンドし、内省的なサウンド・プロダクションを紡ぎあげている。

このアプローチは、『Lemonade』とは非常に対照的。姉が足し算の美学でマッシヴな音像を創り上げたとするなら、妹は引き算の美学。極限まで音数を減らすことで、クール&チルなテクスチャーを追求している。

ソランジュのヴォーカルも、ビヨンセのディーバ系熱唱とは異なり、あくまでトラックのなかで慎ましやかに溶け込んでいる。

ソランジュはこのアルバム制作にあたって、ルイジアナ州ニューイベリアで録音作業を行なった。この地で彼女の両親は出会い、やがて都会に出るものの、激しい人種差別によって再び戻ってきたという。

自分自身のルーツを、黒人たちがアメリカで味わってきた苦闘の歴史と重ね合わせる、という行為。『A Seat at the Table』は、『Lemonade』と同じくプロテスト・ソングとしての意匠をまといながらも、よりパーソナルな想いが込められた一枚となっている。

DATA
  • アーティスト/ソランジュ
  • 発売年/2016年
  • レーベル/Saint Records
PLAY LIST
  1. Rise
  2. Weary
  3. Glory Is in You, The (Interlude) (feat. マスター・P)
  4. Cranes in the Sky
  5. Dad Was Mad (Interlude) (feat. マシュー・ノウルズ)
  6. Mad
  7. Don’t You Wait
  8. Tina Taught Me (Interlude)(feat. ティナ・ノウルズ)
  9. Don’t Touch My Hair(feat. Sampha)
  10. This Moment (Interlude) (feat. デヴ・ハインズ、Sampha、マスター・P、ケルシー・ルー)
  11. Where Do We Go
  12. For Us by Us (Interlude)(feat. マスター・P)
  13. F.U.B.U.(feat. ザ・ドリーム、BJ・ザ・シカゴ・キッド)
  14. Borderline (An Ode to Self Care)
  15. Got So Much Magic, You Can Have It (Interlude)(feat. ニア・アンドリュース、ケリー・ローランド)
  16. Junie
  17. No Limits (Interlude) (feat. マスター・P)
  18. Don’t Wish Me Well
  19. Pedestals (Interlude)
  20. Scales(feat. ケレラ)
  21. Closing: The Chosen Ones