『Elephant』──赤・白・黒の美学と2ピース編成が生んだ決定盤
『Elephant』(2003年)は、ジャック・ホワイトとメグ・ホワイトによるデトロイトの2ピースロックバンド、ホワイト・ストライプスの4作目となるアルバム。赤・白・黒の配色で統一された独自のビジュアル戦略を背景に、メジャーレーベル移籍後初の作品として10日間の短期制作で録音された。代表曲「Seven Nation Army」を収録し、ガレージロック・リバイバル期の重要作として広く認知された。
ミニマリズムの磁場としてのホワイト・ストライプス
もう20年くらい前になるが、僕が知り合いに呼ばれてスタジオのバンド練習に行ったとき、ドラムを担当していたのが、ヘアメイクを本業とする美人なお姉さんだった。
これだけカワイイのにボーカルとかギターとかじゃくて、ドラマーという縁の下の力持的ポジションを担当していることに、妙に感動してしまったことを覚えている。
何と言いますか、ドラムを選択するという行為そのものに、職業的プロフェッショナリズムを感じた訳です。それ以来、美人ドラマーがいるバンドは、条件反射的に応援してしまうクセがついてしまった。ゲスの極み乙女。の ほないこか とか、SILENT SIRENの梅村妃奈子とか。
その意味で、ホワイト・ストライプスのメグ・ホワイトは、最初から特別な存在だった。愛らしいルックスと、わずかに柔らかみを帯びたボディライン。
シンボリックな色彩で統一されたアートワークの中で、メグの無駄のない佇まいは、ただそこに座っているだけで強度を持つ。彼女のドラムが“上手い”かどうかは重要ではない。
むしろ、技巧の誇示とはまったく異なる“迷いのない拍”が、ホワイト・ストライプスの音楽の基礎構造を決定づけていた。
ギター兼ヴォーカルのジャック・ホワイトとは姉弟なのか、元夫婦だったのか──当時から憶測はいくらでも流布したが、その曖昧な関係性そのものが“二人きりの密室感”を形づくっていたのは確かだ。
二人の距離の近さ、ある種の禁忌に触れるような気配。ロックが性愛の匂いを帯びたときにだけ生まれる磁場が、ホワイト・ストライプスというユニットの核心にあった。そこに漂う緊張は、音より前に存在する、視覚的・身体的なエネルギーだった。
色彩の暴力と構成主義
ホワイト・ストライプスを語るとき、彼らのサウンドと同じくらい重要なのが“色”だ。アートワークは赤・白・黒の三色のみで徹底管理され、写真や衣装、ライヴのヴィジュアルまでもが一貫してこの配色に統合されている。
これは20世紀初頭の構成主義の手法を援用したものだと言われるが、単なるデザインのための引用にとどまらない。色そのものがコンセプトであり、音楽と同じ速度で意味を放射する“パフォーマンスの一部”になっている。
赤は肉体、白は虚無、黒は隙間。三色はコントラストの極限として作用し、聴き手の感覚を強制的に覚醒させる。コカ・コーラのブランドカラーが象徴するように、この組み合わせは“意識を奪う”力を持っている。
ジャケットに目を落とした瞬間、視覚が先に占有され、音を聴く前にすでにホワイト・ストライプスの世界に取り込まれてしまう。
この色彩戦略は、彼らの音楽がそもそも“削ぎ落とし”を核にしていることと密接に関わっている。要素を削ぎ落とすとは、選択肢を抹消し、残った成分を極限まで強調することでもある。
赤・白・黒という三色は、その思想を最も直接的に可視化する記号だった。装飾をすべて削ぎ落とし、かろうじて残された色の濃度だけで世界を構築する。これこそ、ホワイト・ストライプスの音楽そのものの手つきと、完璧に同じロジックだ。
ミニマルゆえの暴力性と甘さ
『Elephant』(2003年)は、製作期間10日、総費用60万円というインディーズ同然の環境で録音された。それでも音は巨大に聴こえる。理由は単純で、音を厚くするのではなく“空白を支配する”ことでスケールを獲得しているからだ。
ジャックのギターとメグのドラム──この二つの線が交差するだけで、なぜか耳の奥の空間が広がる感覚を覚える。音数が少ないほど、個々の響きは太くなる。この逆説的な構造が、ホワイト・ストライプスのエネルギー源だ。
メグ・ホワイトのドラムは単調に聴こえる。しかし、この単調さが音楽の全体像を規定している。細かなフィルやスウィングのニュアンスを排除し、ただただ“間隔”を刻む。
拍の堅固な規則性が、ジャックの歪んだギター・リフの暴力性を前景化し、その荒々しさに甘い影を落とす。音を足すのではなく、削ることで暴力と甘さが同居する。この削ぎ落としの美学こそが、ホワイト・ストライプスの最大の発明だった。
そして奇妙なのは、これほど攻撃的なのに、聴き手の脳内では音がポップに変換されていく点だ。音数が少ないため、欠落した部分を自分の内側で補完してしまう。
ミニマルなガレージ・ロックが、脳内で勝手に“メロディアスなもの”へと変換される。まるで影絵のシルエットしか見えていないのに、その背後に勝手に色彩豊かな物語を描き出してしまうように。
結果として、赤・白・黒の三色だけで提示されるホワイト・ストライプスの世界は、リスナーの脳内で無限の色へと増殖する。抑制された三色が、逆に色彩の爆発を引き起こす。この逆説的な豊穣さが、“ただのガレージ・ロックバンド”との決定的な差異だった。
- アーティスト/ホワイト・ストライプス
- 発売年/2003年
- レーベル/V2 Records
- Seven Nation Army
- Black Math
- There’s No Home For You Here
- I Just Don’t Know What To Do With Myself
- In The Cold, Cold Night
- I Want To Be The Boy…
- You’ve Got Her In Your Pocket
- Ball And Biscuit
- The Hardest Button To Button
- Little Acorns
- Hypnotise
- The Air Near My Fingers
- Girl, You Have No Faith In Medicine
- It’s True That We Love One Another
![Elephant/ザ・ホワイト・ストライプス[CD]](https://popmaster.jp/wp-content/uploads/71Y5v6jUaPL._AC_UL640_FMwebp_QL65_-e1763187294117.webp)