「古き良き未来」とでも形容すべき、マウス・オン・マーズのsi-fi(サイ・ファイ)感覚
個人的にはHard Floorみたいなカツカツしたテクノが苦手で、清涼系エレクトロニカが好みである。
’90年代のはじめくらいまで、テクノっちゅうのは「フロアで踊るためのクラブ・ミュージック」という側面が強かったが、「自分の部屋でまったり聴く」テクノとして、いわゆるリスニング・テクノが序々に台頭してくる。
僕みたいに、金曜日のテクノナイト目当てに西麻布Yellowに夜な夜な通い、朝にはどんよりして大学に行っていた(おかげで結局中退)ような人間には実にありがたい。そういう路線で行くと、やっぱりマウス・オン・マーズは外せないトコがある。
直訳すれば「火星のネズミ」という、訳の分からないユニット名ではあるが、あの御大・細野晴臣氏もえらく気に入っているらしいので、間違いないことは間違いない。
ヤン・ヴェルナー氏とアンディ・トーマ氏のドイツ人コンビによる音楽は、電子のパルスが縦横無尽に光速移動し、ピコピコと聴覚を刺激する。地球の重力に逆らうようなねじれ感、肩越しに覗きみえるかのような”ほどほどの”近未来感が、とてつもなくキモチイイ。
エクスペリメンタル・テクノというと、何だか重くてお堅いイメージがあるが、マウス・オン・マーズが紡ぐサウンドは、実験精神に溢れながらもその耳ざわりはあくまで軽く、プリミティヴな快感がある。
特に7枚目のアルバム『Idiology』(2001年)には、オウテカやオヴァルとは一線を画す、突き抜けたポップセンスが感じられる(ちなみにヤン・ヴェルナーはオヴァルのマーカス・ポップとミクロストリアなるユニット活動も展開している)。
僕はマウス・オン・マーズの音像をビジュアルにアウトプットする時、なぜだか初めてコンピュータ・グラフィックスを導入したSF映画『トロン』(1982年)を思い浮かべる。ミクロの電子世界で展開する壮絶な闘いを描くこの作品は、実にレトロ風味な光のファンテリュージョンだった。
マウス・オン・マーズのサウンドも、「古き良き未来」とでも形容すべきsi-fi(サイ・ファイ)感覚があるのである。
- アーティスト/Mouse On Mars
- 発売年/2001年
- レーベル/Thrill Jockey
- Actionist Respoke
- Subsequence
- Presence
- Illking
- Catching Butterflies With Hands
- Doit
- First: Break
- Introduce
- Unity Concepts
- Paradical
- Fantastic Analysis
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