潜水艦モノの定型フォーマットをなぞるだけになってしまった、戦略ミス作品
いわゆる潜水艦モノは、海底数百メートルで繰り広げられる地味な知力戦に終始してしまい、どうしても映画的高揚感に欠けてしまうし、『レッド・オクトーバーを追え!』(1990年)や『K-19』(2002年)など、過去にいくつも先例が作られてしまったことで、今更感がつきまとってしまう。
空間が限定されることで、ストーリーの応用がきかないのも大きなマイナス。つまりこのジャンルは、オリジナリティーを孵化させにくいのだ。しかしこの『U-571』(2000年)には、それまでの潜水艦モノにはない秀逸なアイディアが用意されている。
舞台は、第二次世界大戦下のヨーロッパ戦線。アメリカは戦況を打開するべく、ナチスドイツの暗号解読機エニグマを潜水艦U-571から奪取することを計画する。
首尾よくエニグマを発見するまでは良かったが、別のUボートに自分たちの巡洋潜水艦を撃破され、僅かに残ったメンバーはU-571に閉じ込められてしまう…というのが、おおまかな概要。馴染みのないドイツの潜水艦で、アメリカ海軍兵が右往左往する、というのが物語のミソなのだ。
ドイツ語を理解できない主人公たちが、ナチスドイツが誇る最強の潜水艦Uボートの内部構造を少しずつ理解して、四面楚歌の危機的状況を打開していく。これは面白いプロットだと膝を打って喜んだのもつかの間、期待はあっという間に失望に変わってしまった。
なんですかコレは。捕虜にしたドイツ人兵は、てっきり米国側の囮となると思いきや、ドイツ側にモールス信号を送っているのがバレてあっさり殺されてしまう。ドイツ語が堪能なことから、エニグマ奪取計画に参画した通信兵のウエンツ(ジャック・ノーズワージー)は、もっぱらソナー探査の役回りに終始している。
うーん、これは完全に戦略ミス。Uボートを乗っ取ったことを活かして、「いかにドイツ軍にばれず、連合国側の占領地域に逃げ込めるか」にポイントを絞れば、傑作になっただろうに。
ジョナサン・モストウは、敵駆逐艦との対決に焦点を当ててしまって、潜水艦モノの定型フォーマットをなぞるだけの映画になってしまった。映画をより効果的に作動できる手札は用意してあるだけに、実に惜しい。
日本版のイメージソング『Save the World』を歌っている関係からか、何故かジョン・ボン・ジョヴィがピート・エメット大尉役で出演しているのだが、これが全く脳裏に残らず。
っていうかボン・ジョヴィって、こんなご面相でしたっけ?一応マシュー・マコノヒーの親友という設定らしいのだが、さしたる見せ場もないままに、序盤であっけなく死亡。
音楽界のスーパースターでも、映画界では格段に扱いが違うものなんですね。
- 原題/U-571
- 製作年/2000年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/116分
- 監督/ジョナサン・モストウ
- 製作/ディノ・デ・ラウレンティス、マーサ・デ・ラウレンティス
- 製作総指揮/ハル・リーバーマン
- 原案/ジョナサン・モストウ、サム・モントゴメリー、デヴィット・エイヤー
- 脚本/ジョナサン・モストウ
- 撮影/オリヴァー・ウッド
- 音楽/リチャード・マーヴィン
- 美術/ゴツ・ウェイドナー
- 編集/ウェイン・ワールマン
- 衣装/エイプリル・フェリー
- マシュー・マコノヒー
- ビル・パクストン
- ハーヴェイ・カイテル
- ジョン・ボン・ジョヴィ
- デイヴィッド・キース
- ジェイク・ウェバー
- トーマス・クレッチマン
- ジャック・ノーズワージー
- トム・グイリー
- ウィル・エステス
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