全編“怒り”に満ち満ちた、黒澤明流「古典的復讐劇」
実はワタクシ、テニスは意外と好きなのである。NHKでやっていたウィンブルドンの放送、昔よく観てたなあ。
あの頃は6連覇を果たしたナブラチロワの天下だったんだが、その女性離れした強靭な肉体とパワフルなプレーを見て、彼女は絶対フィリピンあたりで性転換手術した元男性だと信じ込んでた。
38歳で第一線を退いたものの、44歳のときに全米オープンでダブルスに現役復帰を果たし、50歳で全米オープン混合ダブルス部門で優勝してしまうんだから、とてつもないオバサンである。
それを考えると、31歳の落ち目ベテラン男子プレーヤーとして登場する本編の主人公ピーターは、ナブラチロワに比べればだいぶお若いんではないですか。
ピーターを演じるのは、『ダ・ヴィンチ・コード』(2005年)では殺戮鬼と化した修行僧シラスを、『ドッグヴィル』(2003年)では村人に道徳観を植え付けようと奮闘するドラ息子を、『ビューティフル・マインド』(2001年)ではラッセル・クロウの良き理解者となるルーム・メイトを演じてきたポール・ベタニー。
異様な眼力でアブノーマルさがダダ漏れしてしまう俳優だが、『ウィンブルドン』では気弱な好青年を嫌みなく演じている。
売り出し中の若手女子プレーヤーのリジー・ブラッドベリー(キルステン・ダンスト)と、全英トーナメント中に恋に落ち、セックスをやりまくってエネルギーが満タンになったのか、あれよあれよという間に勝ち進んでいくという、相当にヘンな話。
二人が恋に落ちるまでの描写が性急すぎるし、不和だった家族が再び結束を固めるくだりもストーリーに上手く絡んでこないし、2人の仲をとりもつように現れる彗星も効果的に作動していないし、相変わらずキルステン・ダンストは、カワイイんだかブサイクなんだかよく分からない。
しかし、過去に『ノッティングヒルの恋人』(1999年)や、『ラブ・アクチュアリー』(2003年)といった良質のロマンチック・コメディーを世に送り出してきたワーキング・タイトル・フィルムズ作品だけあって、イギリスの歴史溢れる街並みをじっくり見せつつ、抑制の利いたユーモアと理知的な演出によってストーリーを転がしていくその手法は、今や鉄板とも言える安定度。
少なからず存在する諸々のウィーク・ポイントも、観ているあいだはさほど気にならなくなってしまう。
かつて窪塚洋介主演の『ピンポン』(2002年)が、VFXを縦横無尽に駆使した卓球のラリー・シーンを躍動的に描いてみせたが、本作でもVFXを取り入れることによって、テニス・プレーのダイナミズムを表現。クライマックスの決勝戦のラリーなどは、その巧みな試合展開ぶりも含めて、意外に胸が熱くなる迫力だ。
ちなみにこの映画、解説者役でジョン・マッケンローやクリス・エバートといったかつての名プレイヤーも出演しているので、お見逃しなきよう。
かつて“氷の人形”の異名をとったクール・ビューティーことクリス・エバートもすっかり歳をとってしまったが、それに比べると、ナブラチロワの不老ぶりはやっぱり異常だと思う。
- 原題/Wimbledon
- 製作年/2005年
- 製作国/イギリス
- 上映時間/99分
- 監督/リチャード・ロンクレイン
- 製作/ライザ・チェイシン、エリック・フェルナー、メアリー・リチャーズ
- 製作総指揮/ティム・ビーヴァン、デブラ・ヘイワード、デヴィッド・リヴィングストン
- 脚本/アダム・ブルックス、ジェニファー・フラケット、マーク・レヴィン
- 撮影/ダリウス・コンジ
- 音楽/エドワード・シェアマー
- 編集/ハンフリー・ディクソン
- 衣裳/ルイーズ・スチャンスワード
- タイトルデザイン/カイル・クーパー
- キルステン・ダンスト
- ポール・ベタニー
- ニコライ・コスター=ワルドー
- ジョン・ファヴロー
- サム・ニール
- オースティン・ニコルズ
- バーナード・ヒル
- エレノア・ブロン
- ジェームズ・マカヴォイ
- アマンダ・ウォーカー
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