「追う者」と「追われる者」の視点を交互に移動させる、本格的カーチェイス
【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。】
刑事ドラマの金字塔『太陽にほえろ』(1972年〜1986年)のスタッフも、製作にあたって参考にしたという『ブリット』(1968年)。
はっきりいってコレ、痛快無比なアクション映画ではない。ドラマティックな高揚を抑えて捜査のディティールを丁寧に描き込んだ、「ブリット刑事のある一日」とでも題すべき一編である。
これがハリウッド第一作となるピーター・イエーツの演出は、シャープでタイトといえば聞こえがいいが、ドラマの積み上げ方が生真面目すぎる印象。特に前半の病院のシークエンスは演出が地味すぎて、逆の意味でハラハラしてしまった。
極端にセリフが少ないのも、この映画の特徴のひとつ。何でもスティーヴ・マックィーンがセリフを覚えるのが嫌だったからというのが理由らしいが(役者としてどーなんだソレ)、サスペンス映画としては致命的に事件経過が分かりにくい。
僕は『ブリット』を2度見直してみたが、上院議員のロバート・ヴォーンがジョニーなる“組織の裏切り者”を、執拗なまでに証言台に立たせようとする理由が全く分からなかったし、そもそもジョニーがなぜ替え玉を使ったのかも分からなかった。
撮影段階では、ラストでスティーヴ・マックィーンによる事件の種明かしがあったらしいが、編集段階でばっさりとカット。状況説明を徹底的に省くことによって、物語の経済的な効率化をはかっている(本作は1968年度アカデミー編集賞を受賞)。
個人的には、効率化を徹底するなら、物語に何ら影響を及ぼさないジャクリーン・ビセットの出演シーンを、ごっそりカットしてしまったほうがいいような気もするんだが。
さて、『ブリット』といえば映画史に残る本格的カーチェイス・シーン。もっとも、演出技法は極めてシンプルなものだ。運転者のアイ・ポジションを観客の視点と同一化させ、「追う者」と「追われる者」の視点を交互に移動させることによって、緊迫感を高めようとする試み。しかし、このカーチェイス・シーンが秀逸なのは、舞台を坂道の多いサンフランシスコに設定したことにある。
元プロ・レーシング・ドライバーという物凄い経歴を持っているピーター・イエーツは、実際の運転者よりも若干低いポジションにアイ・カメラを設置。
これにより、道路が平面の場合はロー・ポジションすぎて前景が確認できず、斜面を下ったときは車体が前のめりになって、前景が把握できるという効果が生まれる訳だ。
この勾配がカーチェイスに独特のリズムをもたらす。演出の巧みさよりも、ロケーションの選定を賞賛すべきシーンと言えるだろう。
全体的には、抑制的というよりも単なる説明不足にしか思えない演出が好きになれない作品ではあるが、このカーチェイスだけは何度でも見返したいぐらいです。
- 原題/Bullitt
- 製作年/1968年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/113分
- 監督/ピーター・イエーツ
- 製作/フィリップ・ダントニ
- 製作総指揮/ロバート・E・レリア
- 原作/ロバート・L・パイク
- 脚本/アラン・R・トラストマン、ハリー・クライナー
- 撮影/ウィリアム・A・フレイカー
- 音楽/ラロ・シフリン
- スティーヴ・マックィーン
- ジャクリーン・ビセット
- ロバート・ヴォーン
- ドン・ゴードン
- サイモン・オークランド
- ロバート・デュヴァル
- ノーマン・フェル
- ジョーグ・スタンフォード・ブラウン
- ジョン・アプリア
- ビル・ヒックマン
- ジャスティン・ター
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