メランコリア/ラース・フォン・トリアー

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「長いこと自分がユダヤ人だと思っていたが、その後ナチに傾倒した。ヒトラーの気持ちは理解できる。オーケー、僕をナチと呼んでいいよ」

映画界の真性こまったちゃんであるラース・フォン・トリアーは、カンヌ国際映画祭の記者会見で、何を血迷ったか不用意なナチス擁護発言をブチかまし、「好ましからぬ人物」としてカンヌから追放されてしまった。

エキセントリックもここまで突き抜ければ、神レベル。そしてカンヌに出品された映画『メランコリア』もまた、穏健派の映画人の神経を逆撫でするような、禍々しいカタストロフだった。

とにかく、冒頭8分間の終末論的ビジュアルが素晴らしい。純白のドレスに身を包んだキルスティン・ダンストが湖中にたゆたい、子供を抱えたシャルロット・ゲンズブールが雪の舞うゴルフ場で狂乱し、サラブレッドが足元から崩れ落ちる。

まるでファッション雑誌の一面広告のごとき、ポートレイト風イメージ。過度にグラフィカルすぎるという批判もあろうが、『メランコリア』はまず映像の圧倒的な強度で我々を魅了する。

やがて映画は、キルスティン・ダンスト演じるジャスティンの結婚パーティー場面に移り変わる。結婚を人生の墓場と考えている母親(シャーロット・ランプリング)、“ベティ”の名の女性に異常な支配欲&性欲を発揮する父親(ジョン・ハート)、ジャスティンの気まぐれ行動に嫌気が指し、彼女が視界に入るたび顔を覆う仕草をするウェディング・プランナー(ウド・キアー)。

手持ちカメラによる生々しいカットの連続と、目を見張るようなビジュアルの美しさによって、救いようのない鬱に蝕まれたジャスティンの孤独が、ゆっくりと、しかしながら着実に、観る者の脳内に浸透していく。

ジャスティンの鬱がいよいよ深刻化する第二部に展開すると、第一部の結婚パーティーとうってかわって、登場人物は極端に削ぎ落とされる。

まるでアンドレイ・タルコスフキーの『サクリファイス』のごとく、「少人数の人々が片田舎で世界の終わりに遭遇する」というプロットが起動する。ミクロ的視点で、マクロ的事象(この世の終わり)が語られるのだ。

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自身鬱病にかかっていたラース・フォン・トリアーは、「鬱病の人間は常に最悪を想定しているので、実際に悲惨なことが起きた場合には、普通の人間よりも冷静に対応できる」という精神分析医の所見を聞いて、『メランコリア』の着想を得たらしい。

実際映画でも、地球の破滅がいよいよ現実化してくるのと同調するように、ジャスティンは次第に正気を取り戻していく。その決定的契機となった、月の明かりを浴びて全裸で横たわるキルスティン・ダンストの、何と神々しいことよ(彼女ってあんなに巨乳だったっけ?)!

この『メランコリア』、構造的にはそうとういびつだし、ラース・フォン・トリアーの語り口は(特に第一部は)鈍重だし、決して映画的に優れた作品だとは思わない。

イメージの醸成に腐心しすぎて、キルスティン・ダンストの内面描写に片手落ち感がつきまとうのも事実だ。しかし、この映画には媚薬的な求心力がある。良識ある人々すらもメランコリアに吸い込まれてしまうような、ブラックホール的な深淵がある。

ラース・フォン・トリアーはこの映画に関して、「甘いクリームの上にクリームを重ねた映画だ」と語っている。また、「憂鬱は、ある意味で恋に落ちるのと同じような甘い痛み」とも語っている。

己が内包するメランコリア(憂鬱)が、破滅的に巨大なメランコリアとの邂逅によって救済されるという物語は、たしかに究極的な意味でハッピー・エンドなのだろう。

ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』に乗せて紡がれるこのディサスター叙事詩は、デンマーク生まれの一映画作家が治癒されるべく作られた作品なんであり、極めて個人的な救済願望が織り込まれた“祈りの映画”なんである。

DATA
  • 原題/Melancholia
  • 製作年/2011年
  • 製作国/デンマーク
  • 上映時間/130分
STAFF
  • 監督/ラース・フォン・トリアー
  • 脚本/ラース・フォン・トリアー
  • 製作/ミタ・ルイーズ・フォルデイガー、ルイーズ・ヴェス
  • 製作総指揮/ペーター・オールベック・イェンセン、ペーター・ガルデ
  • 撮影/マヌエル・アルベルト・クラロ
  • プロダクションデザイン/イェテ・レーマン
  • 衣装/マノン・ラスムッセン
  • 編集/モリー・マリーヌ・ステンスゴード
CAST
  • キルステン・ダンスト
  • シャルロット・ゲンズブール
  • キーファー・サザーランド
  • アレキサンダー・スカルスガルド
  • ブラディ・コーベット
  • キャメロン・スパー
  • シャーロット・ランプリング
  • イェスパー・クリステンセン
  • ジョン・ハート
  • ステラン・スカルスガルド
  • ウド・キア

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