ストーリーに「聖杯」というモチーフを組み込んだ不可思議ファンタジー
ロビン・ウィリアムズって、どの映画でも「妻を亡くした中年男」ばっかり演じているような気がするんだが、ご多分にもれずこの作品もそういう役である。なおかつ、過去の事件のトラウマで気がオカしくなっている男となれば、ロビン・ウィリアムズの独壇場だ。
I like New York in June.
How about you?
I like a Gershwin tune.
How about you?
『フィッシャー・キング』(1991年)は、不用意な一言から大量殺人事件をひきおこしてしまい、すっかり落ちぶれてしまった元人気DJが、次第に人生を改めて見直していくという“再生”の物語である。
イニシエーション・ドラマとしてかなり定型なこのフォーマットを、「キリストの聖杯」というアクロバティックな設定を組み込むことによって、テリー・ギリアムは物語を自分のフィールドに引き込んだ。つまり、ファンタジーという領域に。
ファンタジーとはえてして、「こちら側からあちら側に越境し、そしてまたこちら側に戻って来る」という風に、最終的に現実世界に帰還するものなのだが、ギリアム映画はそもそも最初っから「あちら側」に行きっぱなし。荒唐無稽なプロットを詰め込みすぎて、物語が破綻することも少なからずあった稀代のファンタジスタなのである。
自らシナリオを書いてきたテリー・ギリアムは、前作『バロン』(1988年)の興行的失敗により、今作ではリチャード・ラグラヴェネスによる脚本を演出するハメに。つまり雇われ監督としてのスタンスである。
しかし、結果的にこれが大正解。“ヒューマン”というシバリで物語を構築したことによって、ファンタジーの過剰さが相殺されて口当たりのいいニューヨークの御伽噺に仕上がっているんである。
セントラル・ステーションで行き交う人々が突然ワルツを踊りだすなど印象的なシーンはたくさんあるが、個人的に一番好きなシーンは、オカマちゃんがアマンダ・プラマーの職場に押しかけて熱唱するシーン。
テリー・ギリアム自身、モンティ・パイソン時代はおかしなオカマ役を熱演していただけに、このシーンにはかなり思い入れがあるものと推察する。
ストーリーに「聖杯」というモチーフを組み込めきれなかったキライはあるが、見終わった後、不思議に気持ちがポカポカと暖かくなるような好編であります。ちなみに僕も6月のニューヨークが好き。How about you?
- 原題/Fisher King
- 製作年/1991年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/137分
- 監督/テリー・ギリアム
- 製作/デブラ・ヒル、リンダ・オスト
- 脚本/リチャード・ラグラヴェネス
- 撮影/ロジャー・プラット
- 音楽/ジョージ・フェントン
- 編集/レスリー・ウォーカー
- 衣装/ベアトリス・パスツォール
- 特撮/デニス・ディオン
- ロビン・ウィリアムズ
- ジェフ・ブリッジス
- アマンダ・プラマー
- マーセデス・ルール
- マイケル・ジェッター
- デヴィッド・ピアース
- テッド・ロス
- ララ・ハリス
- キャシー・ナジミー
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