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ribbon/渡辺美里

「戦後最大のポップアルバム」と銘打たれた、渡辺美里の代表作

ガールズポップの先駆者としての渡辺美里

中学時代、最大のポップスターは渡辺美里だった。スクールカーストを飛び越え、ジェンダーを飛び越え、ツッパリもオタクも飛び越え、誰もが彼女の歌を聴いていた。

バブル景気に浮かれた’80年代後半、カラオケ文化が一気に広がり、街には歌が溢れていた。そんな時代に渡辺美里の楽曲は「青春そのもののサウンドトラック」として機能し、少年少女たちの学園生活を鮮やかに彩っていたのである。

改めて振り返ると、渡辺美里はガールズポップの偉大なる先駆者だった。アルバム・オリコン1位を9作も獲得し、’80年代から’90年代にかけて日本の音楽シーンを席巻した。

その成功の最大の理由は、彼女を支えた豪華すぎる作曲陣にある。デビューアルバム『eyes』(1985年)には、小室哲哉、木根尚登、岡村靖幸、大江千里、白井貴子ら、EPIC・ソニーを代表する俊英たちが名を連ねていた。

もっとも、当時のTM NETWORKはまだブレイク前であり、岡村靖幸もソロ・デビューすらしていなかった。プロデューサーによる慧眼の大抜擢が、後のシーンを決定づける布石となったのだ。

戦後最大のポップアルバム

1988年にリリースされた渡辺美里のアルバム『ribbon』。そのキャッチコピーには「戦後最大のポップアルバム」とある。一見すると大げさにも思えるが、実際に耳を傾けると、その惹句が誇張ではないことが理解できるだろう。

同時期にはTM NETWORKの『CAROL 〜A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991〜』(1988年)や岡村靖幸の『DATE』(1988年)といった名盤も登場していたが、『ribbon』はアイドル的な消費を超え、長期的に聴き継がれる普遍性を獲得した。ポップスとロック、商業性とアーティスト性のバランスが絶妙であり、日本の音楽史に残る名盤と呼ぶにふさわしい。

CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜
『CAROL 〜A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991〜』(TM NETWORK)

『ribbon』の魅力をより深く知るために、収録曲をひとつずつ振り返っていこう。

M-1「センチメンタル カンガルー」/作詞:渡辺美里、作曲:佐橋佳幸
オープニングにふさわしい疾走感に満ちたナンバー。華やかなホーン・セクションがアルバム全体のムードを盛り上げる。

M-2「恋したっていいじゃない」/作詞:渡辺美里、作曲:伊秩弘将
SPEEDを手がける前の伊秩によるファンクチューン。岡村靖幸のコーラスが半拍突っ込む感じで絡み、BPM感をさらに煽る。

M-3「さくらの花の咲くころに」/作詞:渡辺美里、作曲:木根尚登
センチメンタルなメロディメーカー木根の真骨頂。春の情景を切り取ったような抒情的ナンバー。

M-4「Believe」/作詞:渡辺美里、作曲:小室哲哉
クラシカルなピアノで幕を開ける楽曲。鬱屈したBメロから一気に解放されるサビへの展開、マジで小室哲哉は天才だわ。

M-5「シャララ」/作詞:渡辺美里、作曲:岡村靖幸
アルバムの中盤を彩る軽快なポップ・チューン。恋の高揚感と少し不器用な青春の感情がストレートに描かれる。

M-6「19才の秘かな欲望」/作詞:渡辺美里、作曲:岡村靖幸
岡村ちゃんらしい変態的な色彩を封印し、職人的に青春を切り取ったソングライティングが光る。

M-7「彼女の彼」/作詞:渡辺美里、作曲:佐橋佳幸
文学的で叙情的な響きを持つ名曲。岩井俊二映画のサウンドトラックを想起させる、繊細な輝きに満ちている。

M-8「ぼくでなくっちゃ」/作詞:渡辺美里、作曲:渡辺美里
美里自身が作曲。エレクトロニカ色の強い異色曲で、エレポップ好きにはたまらない。

M-9「Tokyo Calling」/作詞:渡辺美里、作曲:伊秩弘将
公害問題をテーマにした社会派ナンバー。坂本龍一を想起させるアレンジを纏いながらも、ポップに昇華するのが美里らしい。

M-10「悲しいね」/作詞:渡辺美里、作曲:小室哲哉
マイナーコードのダウナーな展開からサビで爆発的に高揚する、小室らしい構成。美里の声の強靭さが切なさを際立たせる。

M-11「10 years」/作詞:渡辺美里、作曲:大江千里
アルバムのラストを飾るにふさわしい佳曲。大江らしいリリカルなメロディが、聴後に柔らかな余韻を残す。

『ribbon』がポップ史に残したもの

『ribbon』を語る上で忘れてはならないのが渡辺美里の「声」である。伸びやかで力強いだけでなく、ソウルフルな熱量を帯びたその歌声は、80年代のデジタルアレンジを突き抜けてリスナーの心を揺さぶった。

西武球場で毎夏開催された伝説的なライブが、彼女を「スタジアム・アーティスト」として確立させたことも特筆すべきだろう。巨大な空間を声で支配できる女性シンガーは、当時ほとんど存在しなかった。

『ribbon』は、単なるヒット作ではない。ポップとロック、アイドル性とアーティスト性、消費と芸術性の境界を軽やかに超えたアルバムだった。 そこには1980年代後半の青春像が、鮮やかに封じ込められている。

ラウドなエレキギターが要所を引き締める構成は意外なほどロック的であり、35年を経た今でもエヴァーグリーンな輝きを放っている。

DATA
  • アーティスト/渡辺美里
  • 発売年/1988年
  • レーベル/EPIC・ソニー
PLAY LIST
  1. センチメンタル カンガルー
  2. 恋したっていいじゃない
  3. さくらの花の咲くころに
  4. Believe
  5. シャララ
  6. 19才の秘かな欲望
  7. 彼女の彼
  8. ぼくでなくっちゃ
  9. Tokyo Calling
  10. 悲しいね
  11. 10 years

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