「『ブゴニア』誤った物語を信じて傷つけあう人類へ捧ぐ、滑稽なレクイエム ※注!ネタバレ含みます」という考察/解説レビューをCINEMOREに寄稿しました。
スクリーンを埋め尽くす蜂のクローズアップと、神経を逆撫でするような羽音。ヨルゴス・ランティモス監督の『ブゴニア』(25)は、不穏なオープニングショットで幕を開ける。タイトルの「Bugonia(ブゴニア)」とは、古代ギリシャやローマで信じられていた、「牛の死骸からミツバチが自然発生する」という俗説に由来する言葉。かつて人々は、死という穢れから豊穣の象徴である蜂が生まれるという、生命の循環を信じていた。
しかし現代の科学は、その美しき奇跡が単なる見間違いであったことを暴いている。その正体は蜂ではなく、蜂に擬態したハナアブ。花蜜を吸う蜂とは対照的に、ハナアブは汚泥や腐敗した有機物に卵を産み付ける。つまり、古代の人々が「聖なる蜂の誕生」だと崇めた光景の真実は、単に「腐った肉に湧いたウジが羽化した姿」だったのである。
ここには、残酷な真理が潜む。人は、目の前の現実をありのままに見ているわけではない。無意識のうちに自分の信じたい物語を投影し、都合の悪いグロテスクな事実を美しい虚構へと脳内変換してしまう。この認識の誤認こそが、『ブゴニア』を貫く核心的テーマだ。
ぜひご一読ください!
DATA
STAFF
- 監督/ヨルゴス・ランティモス
- 脚本/ウィル・トレイシー
- 製作/エド・ギニー、アンドリュー・ロウ、ヨルゴス・ランティモス、エマ・ストーン、アリ・アスター、ラース・クヌードセン、マイキー・リー、ジェリー・ギョンボム・コー
- 原作/チャン・ジュナン
- 撮影/ロビー・ライアン
- 音楽/イェルスキン・フェンドリックス
- 編集/ヨルゴス・モヴロプサリディス
- 美術/ジェームズ・プライス
- 衣装/ジェニファー・ジョンソン
CAST
FILMOGRAPHY
- 聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア(2017年/イギリス、アイルランド)
- 哀れなるものたち(2023年/イギリス)
- 憐れみの3章(2024年/アメリカ、イギリス)
- ブゴニア(2025年/アイルランド、イギリス、カナダ、韓国、アメリカ)