シン・ゴジラ/庵野秀明

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【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。】

2004年の『ゴジラ FINAL WARS』以来、12年ぶりに国産ゴジラが復活した背景には、ギャレス・エドワーズが監督したレジェンダリー版『GODZILLA ゴジラ』の存在があった。

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つまり、「ハリウッドでこれだけゴジラを宣伝してくれたんだし、若い世代にも認知されているんじゃねー?やるなら今っしょ!」という、便乗商法的マーケティング戦略が働いていたんである。さすが東宝、抜け目なし!

しかし『シン・ゴジラ』製作にあたって、東宝はあえてふたつのリスクを冒した。一つ目は、東宝の単独出資として製作したこと。

今や日本映画のほとんどが、製作委員会方式をとっていることは周知の通り。映画製作会社がテレビ局、出版社、広告代理店などの他業種プレイヤーと製作費を分担し、出資比率に応じて収益を分けよう!という方法論である。

リスクヘッジにはもってこいのやり方だが、大衆受けしやすい“最大公約数的な映画”にソフトランディングしてしまうデメリットも抱えている。

もうひとつのリスクは、総監督に庵野秀明を招聘したこと。東宝プロデューサーのインタビューによると、東宝に庵野秀明を紹介したのは、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサー(アニメ界のフィクサーらしい暗躍ぶり!)。

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これは渡りに舟と、庵野にゴジラの企画について打診したそうだが、完全に彼に任せるのはハイリスクであることも東宝側は承知だったようで、監督:樋口真嗣、助監督:尾上克郎、脚本:庵野秀明というトロイカ体制にすることで保険をかけようとしたそうな。

結果的に、庵野秀明は総監督、脚本、編集、画面設計、音響設計、ゴジラのコンセプトデザインとほぼ全てのクリエイションに携わることとなり、『シン・ゴジラ』はアンノヒデアキ100%濃縮フィルムに仕上がった。

その結果は言わずもがな。興行的にも批評的にも大成功をおさめ、東宝が冒した2つのリスクは最高のカタチでハイリターン!テン年代の記念碑的作品として、後世まで語り継がれるべき傑作といって差し支えないだろう。

最大の成功ポイントは、登場人物を政府関係者に絞り込んだことにある。市井の人々なんぞには目もくれず、ひたすら行政のみを徹底描写。

内面描写は二の次とばかりに、キャラクターのバックグラウンドを一切削ぎ落とし、会議、会議、また会議というディスカッション・ドラマとして物語を構築。

内閣総理大臣、官房長官、防衛大臣といった役職の面々が、対ゴジラ対策にてんやわんやとなる“状況”だけで物語を推進させているのだ。 いかにもお役所的な手続きはもはやブラック・コメディー風味ですらある。

この手法は、庵野秀明が大ファンと公言している岡本喜八の『日本のいちばん長い日』スタイルといえる。太平洋戦争で日本が降伏するまでの24時間を描いた戦争映画の傑作で、物語をほぼ御前会議のみで進行させてしまうという異色のシナリオだが、その構成は『シン・ゴジラ』に極めて近い。

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物語のキーパーソンである牧博士役に岡本喜八その人をアテている(写真だけで登場)ことが、その証左だろう。

よって、キャラクターは極端なまでに記号化される。石原さとみ演じるカヨコ・アン・パターソンにいたっては40代でアメリカ大統領の座を狙っている才媛というハチャメチャさだが、そもそもリアリティ・ライン自体がカリカリュアされたアニメ的設定だからして、全然OK。

市川実日子演じる環境省の課長補佐のオタク喋りも、余貴美子演じる防衛大臣の好戦的態度も、すべて許容されてしまうのだ。

全体に漂う“昭和の特撮映画”感も、『シン・ゴジラ』の特徴だろう。レジェンダリー版『GODZILLA ゴジラ』に真っ向から立ち向かうのではなく、円谷英二イズム、本多猪四郎イズムを現代に蘇らせることで、メイド・イン・ジャパンの挟持を示さんとしている。

両生類のようにモゾモゾ動くゴジラ第一形態なんぞ、ウルトラマン怪獣的テイストにあふれているではないか。

音楽に盟友・鷺巣詩郎を起用しつつも、ここぞという場面では伊福部昭の音楽をまんま使用するなどトリビュート感も満載(おもいっきりエヴァンゲリオンの音楽が使われているシーンもあったが)。さすが庵野秀明、自主映画で『帰ってきたウルトラマン』を本人主演で撮っただけのことはある!

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この映画のキャッチ・コピーは「現実 対 虚構」。しかし3.11を体感した我々日本人にとって、この虚構は極めてリアルな手触りの「虚構」だ。

初代ゴジラはオキジシェン・デストロイヤーによって倒されたが、2016年に降臨したゴジラは死すら克服した存在として登場する。

主人公の矢口蘭堂の言葉を借りるなら、ゴジラは「人間に危害を及ぼす災厄であると同時に、生物の新しい進化の可能性を示す福音」であり、「人類と共に共存」しなくてはいけない存在なのだ。

人類の叡智でもあり贖罪でもあるという二重性は、“原発”という明快すぎるメタファー。『シン・ゴジラ』のシンとは、新でも真でも神でもなく、sin(罪)なのかもしれない。

DATA
  • 製作年/2016年
  • 製作国/日本
  • 上映時間/119分
STAFF
  • 総監督/庵野秀明
  • 監督/樋口真嗣
  • 准監督/尾上克郎
  • 脚本/庵野秀明
  • 編集/庵野秀明
  • 特技監督/樋口真嗣
  • 特技総括/尾上克郎
  • 撮影/山田康介
  • 照明/川邊隆之
  • 画像設計/庵野秀明
  • 録音/中村淳
  • 音響設計/庵野秀明
  • 音楽/鷺巣詩郎、伊福部昭
CAST
  • 長谷川博己
  • 竹野内豊
  • 石原さとみ
  • 高良健吾
  • 大杉漣
  • 柄本明
  • 余貴美子
  • 市川実日子
  • 國村隼
  • 平泉成
  • 松尾諭
  • 渡辺哲
  • 中村育二
  • 矢島健一
  • 津田寛治
  • 塚本晋也
  • 高橋一生
  • 野村萬斎

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