刑務所から出所した札付き者のジョニーが、競馬場の大金を手に入れようと犯罪計画を立案。
バーテン、警官、会計係らを誘って一世一代の大勝負に打って出る。しかし会計係の悪妻がこの計画を嗅ぎ付け、情夫をそそのかして強奪を図ろうとするからサア大変。200万ドルの大金をめぐる駆け引きが展開される。
ジグソーパズルのように入り組んだ人間関係、幾何学模様のように複雑な犯罪計画を、当時弱冠27歳でハリウッド・デビューを飾ったキューブリックは巧みな話術でまとめあげる。
時間経過を事細かく紹介するナレーション、同じ場面を違ったアングルから何度もリプレイさせる手法。隅々まで計算しつくされた構成には、キューブリックの天才的な数学的思考を感じるんである。
タフガイな悪党を演じるスターリング・ヘイドンを始め、役者も演技派を揃えて濃厚な人間ドラマを演出する。
特に会計係の悪妻を演じたメアリ・ウィンザーは秀逸。本気で絞め殺したいくらいイヤな女を好演している。フィルムノワールには悪女と犯罪がつきものだ。
一分のスキのない構成はさすがキューブリックと感心はしたものの、どうも語り口が馬鹿丁寧で面白みに欠ける。彼特有のシニカルな諧謔精神も皆無。完成度は抜群に高いんだが、何だか映画の教科書みたくガッチリしすぎていて、これぽっちのアイロニーもありゃしない。
『博士の異常な愛情』や、『時計仕掛けのオレンジ』等に顕著な“ふてぶてしさ”がスパイスとして効いていれば、間違いなくキューブリックの代表作として認知されるべき作品になったんだろうけど。
DATA
- 原題/The Killng
- 製作年/1956年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/85分
STAFF
- 監督/スタンリー・キューブリック
- 脚本/スタンリー・キューブリック
- 製作/ジェームズ・B・ハリス
- 原作/ライオネル・ホワイト
- 撮影/ルシアン・バラード
- 編集/ベティ・ステインバーグ
- 音楽/ジェラルド・フリード
CAST
- スターリング・ヘイドン
- コリーン・グレイ
- ヴィンス・エドワーズ
- ジェイ・C・フリッペン
- マリー・ウィンザー
- テッド・デ・コルシア
- エライシャ・クック
- ジョセフ・ソーヤー
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