ハリウッド的手法でつくられたアンチ・アメリカなディサスター・ムービー
ローランド・エメリッヒは、ディサスター・ムービーの職人である。
ドイツ・シュツットガルト生まれのこの異邦人監督は、数々の災厄をもたらしてきた。『インデペンデンス・デイ』(1996年)では巨大宇宙船の攻撃によって都市を一瞬のうちに崩壊させ、『GODZILLA/ゴジラ』(1998年)では巨大イグアナを上陸させてパニックに陥れている。その場所は、いつだってニューヨークだ。
何ゆえに、ローランド・エメリッヒはニューヨークに固執するのか。巨大都市の崩壊を描くにあたって、このメトロポリスがジャスト・マッチだったと考えることはたやすい。
しかしその一方で、彼が一貫して描いていたのが、アメリカ的マッチョイズムであることを見逃してはならない。メルティング・ポット(人種のるつぼ)とも称されるこのビッグ・シティには、多種多様の人種・宗教・政治的思想が混在する。
多民族都市ニューヨークが危機的状況を乗り越えて一致団結するプロセスは、多民族国家アメリカが一神教(アメリカン・グローバリズム)によって、世界の中心にあり続ける現実とそのままシンクロするのだ。
いわばローランド・エメリッヒの過去の諸作は、プロパガンダ映画として存在したのである。ドイツ人である彼はそれを血としてではなく、技術として映画に導入した。その目論見はみごと成功し、ワールド・スタンダードとして『インデペンデンス・デイ』、『GODZILLA/ゴジラ』、『パトリオット』は認知される。
しかし「9・11」以降、情勢は激変した。エメリッヒの描いてきたマッチョイズムは最も悪い形で現実化し、正義の象徴であった筈のアメリカは暴走と孤立を深めていく。
アメリカ主義を大前提に置いていたローランド・エメリッヒは、映画的イデオロギーと個人的イデオロギーを切り分けなければならない事態に陥った。
もはや『インデペンデンス・デイ』はファンタジーとしては語られない。『デイ・アフター・トゥモロー』(2004年)は、ハリウッド的手法でつくられたアンチ・アメリカ映画なのである。
二酸化炭素の大量排出に伴う地球温暖化というテーマは、京都議定書を拒否したアメリカの立場からすれば、面白い話ではない。
本編に登場する副大統領は、「環境問題」ではなく「強いアメリカの再興」を選択したブッシュ大統領をそのままなぞったようなキャラクター。故に副大統領がラストで全アメリカ人に向かって語りかけるスピーチの一節、「I was wrong」は、強い意味を帯びてくる。
これは、ジョージ・H・ブッシュの為すべき政治的態度としてはもちろん、ローランド・エメリッヒ自身の謝罪と受け止めるべきだろう。過去のフィルモグラフィーの贖罪として、『デイ・アフター・トゥモロー』は存在する。
- 原題/The Day After Tomorrow
- 製作年/2004年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/124分
- 監督/ローランド・エメリッヒ
- 製作/ローランド・エメリッヒ、マーク・ゴードン、トーマス・M・ハメル、ケリー・ヴァン・ホーン、ローレンス・イングリー、キム・H・ウィンサー
- 脚本/ローランド・エメリッヒ
- 製作総指揮/ウテ・エメリッヒ、ステファニー・ジャーメイン
- 原作/アート・ベル、ホイットリー・ストリーバー
- 脚本/ジェフリー・ナックマノフ
- 撮影/ウエリ・スタイガー
- 編集/デヴィッド・ブレナー
- 音楽/ハラルド・クローサー
- デニス・クエイド
- ジェイク・ギレンホール
- エミー・ロッサム
- セーラ・ウォード
- アージェイ・スミス
- タムリン・トミタ
- イアン・ホルム
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