DIARY

ポップカルチャー系ライター 2025年9月の日記

9月1日(月)

映画のサービスデーだしなー、何か見に行こうかなー、でも行くのタルいなーと思っているうちに一日終了。ドラえもん、僕の一日返して。

9月2日(火)

TOHO CINEMS渋谷で『8番出口』。ちゃんとグローバル・スタンダードな作品に仕立て上げていて、川村元気の戦略性に舌を巻く。ナラティブが存在しない不条理ゲームを色んなYouTuberが実況動画をアップすることでナラティブを獲得した経緯があるのだから、二宮和也実況動画としての今回の映画と別に、山田涼介編とか狩野英孝編とかダイアン津田編とかがあってもいいと思う。

そのあと友人のIさんと喫茶店でお茶して、スチャダラパーLIVE@LINE CUBE SHIBUYAへ。1995年にリリースされた5thアルバム『5th WHEEL 2 the COACH』が30周年ということで、それをまるまる再現するという内容。超楽しかった。僕もいつかノーベルやんちゃDE賞を受賞できる大人になりたいと思います。

5th WHEEL 2 the COACH
『5th WHEEL 2 the COACH』(スチャダラパー)

そういや、シアター・イメージフォーラムが本日でちょうど開館25年らしい。おめでとうございます。いつも利用させていただいております。これからも末長くよろしくお願いします。

9月3日(水)

昼からウェス・アンダーソンの新作『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』試写。列車、ホテル、都市とスケールを拡大してきたウェス・アンダーソンが、いよいよ国家を舞台にしていつもの“壊れた家族の再生”映画を放ってきた。「スーパーバッド童貞ウォーズ」でお馴染みマイケル・セラがええ仕事してます。

夕方からは『Mr.ノーバディ2』試写。ごく平凡で何者でもない中年男が、もはや凄腕の殺し屋であることが自明になった時点でどう続編作るんだと思ってたら、一家揃ってバカンスに出かけて、普通のパパとして奔走するという設定が巧い。コニー・ニールセン姐さんとシャロン・ストーン姐さんのタイマンが見れただけで大満足。

9月4日(木)

お昼から「銀幕にポップコーン」『8番出口』回収録。

そのあと有楽町に移動して、『大統領暗殺裁判 16日間の真実』鑑賞。ベタをベタとしてやり抜く力作。結末が分かっているだけに弁護士の奔走ぶりが切ない。そして『KCIA 南山の部長たち』といい『ソウルの春』といい、この時代を描く韓国映画は“いかに役者が全斗煥をオモロく演じるか”というモードに突入しておる。

そのあと『キムズビデオ』もようやっと鑑賞。うわ、最高かよこの映画。伝説のレンタルビデオ店について関係者インタビューする映画と思いきや、途中から舞台がイタリアになってマフィアまで絡んでくる、実はリアル・オーシャンズ11みたいな映画。キムさんの「ゴダールは映画の神だ。だから君たちは正しいことをした」のセリフは泣いた。ひとつだけ自慢すると、僕は90年代に知り合いに連れられてキムズビデオに行ったことがあります。

9月5日(金)

朝から台風直撃の大雨。そんななか、ミシュラン三ツ星を取り続けているという北品川の有名フレンチレストラン「カンテサンス」へ。前の会社の同僚Iさんが全額ご馳走してくれるとあらば、何も差し置いてもいくしかない。写真NGだったので載せられないけど、目に麗しく、舌が喜ぶ料理が次々と運ばれてきて、大・大・満足。ほんと、ぜんぶ払わせちゃってすいません。一応店頭の様子だけパシャリ。

9月6日(土)

せっせとレビュー書き。仕事絡みで改めて『リンダリンダリンダ』見直す。僕は昔から“推し”という感覚がなくて、この俳優が出ているからこの映画絶対見よう!というのがないのだけれど、ペ・ドゥナだけは別。まるで地球に初めて舞い降りてきた宇宙人のように、好奇心に満ちた眼差しで世界をいつも見つめている姿に、いつもうっとりしてしまいます。

リンダリンダリンダ [DVD]
『リンダリンダリンダ』(山下敦弘

9月7日(日)

Big Thiefの新譜『Double Infinity』を聴く。ベーシストのマックス・オレアーチクが脱退したことで、逆に重力から解き放たれ、各パートがより自在に漂っている。この変化は、Bon Iver以降の“フォーク解体”の流れに似てる気がする。

Double Infinity
『Double Infinity』(Big Thief)

9月8日(月)

朝、ちゃんと原稿納品。俺偉い。

灰野敬二蓮沼執太がコラボしたアルバム『う       た』を聴く。やばい、今年一番好きなアルバムかも。世代も文脈も異なる2人がコラボしたら、タイトル通り空間を切り裂く呪術的なアルバムが出来上がった。70年代的ノイズとゼロ年代的音響の横断。秩序と無秩序の音楽。

うた
『う       た』(灰野敬二、蓮沼執太)

夜、新宿でOさん、Sさんと打ち合わせという名の駄話Vol.2。いくつになってもカルチャートークって楽しいもんですね。また遊びましょう。

9月9日(火)

朝から『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』試写。『デビルマン』+『AKIRA』+『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』+『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』みたいな映画だった。嘘じゃないんです、信じてください。

そのあと、『ブラック・ショーマン』試写。福山雅治が福山雅治のモノマネをしながら福山雅治っぽく事件を解決する、とっても福山雅治なミステリー

9月10日(水)

京橋で『旅と日々』試写。つげ義春の短編を元に三宅唱監督がシム・ウンギョンを主演に迎えて作った、とても奇妙でとても愛らしい一作。四季折々の風景描写が圧倒的に美しい。個人的には三宅作品で一番好きかも。自分だけの棚に入れて何度も見返したくなる。

新しく発売されるAirPods Pro 3にはライブ翻訳機能が搭載されていて、周囲で話されている外国語が指定した言語に翻訳されるらしい。洋楽聴いてたらAirPodsが日本語変換して歌ってくれないかな。音声もいろんなタイプを選べるだろうから、好きな曲を好きなミュージシャンが母国語で歌ってくれる日も近そう。

AirPods Pro 3
AirPods Pro 3

9月11日(木)

朝、原稿2本納品。新宿に移動して、評判の良い呉美保監督の『ふつうの子ども』を観る。いやーふつうにいい映画だった。主人公の男の子を演じる嶋田鉄太くんの、どこかすっとぼけてるような、でもいろんなことを考えているような表情のどアップでもう5億点。着ている洋服もお洒落で、それだけでも楽しい。後半の瀧内公美の爆発力にはシビれた。

夕方からはポール・トーマス・アンダーソン監督の新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』試写。頭のなかでずっと「ヤバい、スゴい、ヤバい、スゴい」を反芻し続けた162分。超ド級の傑作。以上!!

9月12日(金)

午前中、銀幕にポップコーン「おじいさん」特集の収録。ふだん映画におけるおじいさんについて考えたことなかったので、なかなか興味深いテーマだった。

あとは新宿の喫茶店でひたすらWordpressの改修作業。

9月13日(土)

原稿書き書き。書き書き。書き書き。

9月14日(日)

本日誕生日を迎えました。おめでとうございます僕。お祝いにお仕事ください。

朝、記事を納品。そのあと2時にMさんと新宿で落ち合う。珈琲貴族エジンバラで1200円もするカフェオレを飲んだりチーズケーキを食べたりしながら、最近観た映画の話だとか聴いた音楽の話だとかを4時間くらいして(お誕生日ということで奢っていただきました)、ブルックリンパーラーに移動し、ゴーダチーズ&ハラペーニョバーガーを貪り食いながら、やっぱり最近観た映画の話だとか聴いた音楽の話だとかを2時間くらいする。いやーカルチャートークって最高っすね。またお会いしましょう。

BLACKHOLE『ベスト・キッド:レジェンズ』特集、『バレリーナ』特集に続いて僕のおたよりが読まれてた。これもちょっとした誕生日プレゼントみたいなもんだなあ。嬉しい。

9月15日(月)

仕事絡みで藤本タツキ『チェンソーマン』を読み返す。いつも思うんだけど、この人の描く女性の可愛らしさは江口寿史直系で、都市破壊の凄まじさは大友克洋直系で、70年代後半〜80年代前半ニューウェーブの匂いがすっごくする。

エミー賞でNetflix『アドレセンス』が主要6部門で受賞。少女の殺害容疑で逮捕されるジェイミーくんを演じたオーウェン・クーパーが、史上最年少となる15歳で助演男優賞を受賞した。いやもう納得です。家族の前で見せている顔と、家族の前では絶対に見せない顔の2つを演じ分けていて、なんだか普通に俳優としてのスキルの高さを感じていたし。

連続テレビ小説『虎に翼』などで知られる脚本家・吉田恵里香さんの『ぼっち・ざ・ろっく!』に関する発言がSNSで話題になっていた。ちょっと引用してみる。

原作ではひとりちゃん(※主人公の後藤ひとり)が水風呂に入るシーンで裸になっているんですが、アニメでは水着にしてもらいました。ぼざろがそういう描写が売りの作品ならいいと思いますが、そうではないと思いますし、覇権を狙う上ではそうした描写はノイズになると思ったんです
この“ノイズ”という表現に「原作者へのリスペクトが足りない」「自分の主義主張で改変することは何事だ」という批判が殺到。確かにかなり言葉としては強いとは思うものの、大前提として原作者を含めチームとしてコンセンサスがとれているのであれば、改変するのは全然問題ないことだと思うし、むしろアダプテーションという作業は、原作から何を抽出するかという取捨選択が重要になるのでは。本人も
様々な作品があるからこそ、ルールや節度、倫理観を保っていかなくてはいけない。過激な作品やR18まで振り切ったものがあってもいいですし、やると決めれば私も思いっきりそうした作品に関わることもあると思います
と言っているから、関わる作品全てそのように判断するものではない、ときちんと語っているし。世間ってここまで原作忠実主義なのか、と少しびっくり。

9月16日(火)

六本木で『恋に至る病』試写。長尾謙杜×山田奈によるキラキラ青春ストーリーと思ってたら、黒沢清映画みたいな不穏さが漂う異色作だった。二人が自転車で駆け抜けて行く場面をはじめ、美しいショット・構図が盛りだくさん。まさに廣木隆一監督の職人芸。

9月17日(水)

朝、原稿納品。渋谷に移動して、『サターン・ボウリング』試写。ダメダメな弟が兄貴からボウリング場を引き継いで人間性を取り戻していくヒューマン・ストーリーだと思ったら、連続殺人事件が多発するノワールに変貌し、次第にトキシック・マスキュリニティ/マノスフィアに関する寓話であることに気付かされる。

そのあと日比谷に移動して、『爆弾』試写。佐藤二朗の顔芸で2時間強を持たせてしまう、おじさんどアップ映画の極北だった。

星野源「2 (feat. Lee Youngji)」のミュージックビデオが公開されてた。『Gen』収録曲でこのトラックがフェイバリットだったもんで、さっそくチェックしてみたら、テレビサイズのアスペクト比といい、ビデオカメラ的質感といい、魚眼レンズといい、めっちゃ90年代に寄せたアプローチだった。楽しい。

9月18日(木)

東宝東和が米ワーナー・ブラザースの洋画作品を配給へ、2026年公開「嵐が丘」から。

9月19日(金)

朝、原稿納品。

9月20日(土)

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9月21日(日)

開催されるイベント「飛行者天国」。タイムテーブルが発表されました。僕は19:15から中野映画夜話で登壇します。

Perfumeが、今年の12月31日をもって活動休止に入ることを発表。考えてみれば、彼女たちはYMO以降のテクノポップを継承し、SF神話を生み出してきた。活動休止にあたってコールドスリープ=未来の再生を前提とした休眠という表現を用いたのは、「疲れたからちょっと休む!」ではなく、テクノロジー的な存在として未来に備えるということ。アンドロイド的自己を最後まで貫いてる。すごい。

9月22日(月)

サブスク制のミニシアター「CineMalice(シネマリス)」が12月19日にオープンするらしい。サブスクに踏み切ったのは、もちろん安定的な収益基盤という理由もあるのだろうけど、長期的なコミュニティ形成という側面も強いのでは。そういう意味で神保町という場所は強みになり得るし、今後は会員同士のリアルな交流もポイントになってくるはず。

米津玄師×宇多田ヒカル「JANE DOE」聴いてる。痛み(Lemon)や孤独(アイネクライネ)を歌ってきた米津玄師=デンジ、恋愛の絶望(First Love)や救済(Final Distance)を歌ってきた宇多田ヒカル=レゼが、二人だけの世界をデュエットすること自体がすれ違う恋人たちの象徴になってる。

9月23日(火)

マジックリアリズム映画祭というナイスな催しをやっているということで、目黒シネマへ。エミール・クストリッツァ『黒猫・白猫』、アピチャッポン・ウィーラセータクンの『真昼の不思議な物体』、『ブンミおじさんの森』の3本を立て続けに鑑賞。急激にマジックリアリズムを摂取しすぎてクラクラ。一日一本が正しい服用ですねこれは。

テアトル新宿に、僕の『アフター・ザ・クエイク』推薦コメントパネルが貼られてた。しかも宇多丸さんとか三宅香帆さんとか大島育宙さんとか新井英樹さんとかと並んでですよ。昔から通っている映画館で、まさかこんな日が来ようとは。しみじみ。

9月24日(水)

渋谷シネクイントで『ひゃくえむ。』鑑賞。素晴らしい!たった一人で「音楽」を創り上げた岩井澤健治監督が、やはり100M走という個人競技を描きつつ、中盤で男女混合の800mリレーを挟むことで、共同作業をメタに可視化。そして何よりも実験精神と熱い情熱がほとばしってる。そんな映画、最高じゃんか。

そのあとマクガイヤーさんたちと合流して、

YouTubeで番組をフルで観た。ジミー・キンメルの全ての言葉が素晴らしかった。この番組が復活できたことに、アメリカのかすかな希望を感じる。

2026年新春に放送される『クイズ$ミリオネア』、MCを二宮和也が務めるらしい。『GANTZ』や『8番出口』で強制的にゲームに参加させられ続けた二宮和也が、ゲームホストになるという反転構造。

9月25日(木)

最近Perfumeを改めて聴きまくった結論として、彼女たちの最高傑作は「Puppy love」ではないか。軽快なシンセリフで始まり、浮遊感のあるBメロからサビでメロディが一気に跳ね上がる。アイドルポップでありつつクラブトラックのビルド感もある名曲。

9月26日(金)

朝、原稿を納品。有楽町に移動して、スティーヴン・ソダーバーグの新作『ブラックバッグ』鑑賞。『ザ・キラー』のマイケル・ファスベンダーとか、、007シリーズナオミ・ハリスとか、、かつてのボンド役ピアース・ブロスナンとか、完全にスパイ/殺し屋映画に目配せした配役だが、実は結婚生活を考察したブラックコメディ。たぶん方向性としては『ゴーン・ガール』に近いのでは。

続いて、『テレビの中に入りたい』干渉。これ、僕が主人公と同じように田舎で悶々としているティーンエイジャーだったら、完全にミスター憂鬱に囚われてたかも。エグみの強い映像&ストーリーで自己内省を促す超劇薬ムービー。エンドクレジットで音楽がアレックス・Gと知って、びっくりした。

ジョニー・グリーンウッドによる『ワン・バトル・アフター・アナザー』サントラが、本日リリースされたのでソッコーで聴く。個人的には、これまでの彼の映画仕事のなかでベスト。特にM-8「Ocean Waves」の、ピアノの短音がずっと鳴り響き、そこに金管の不協和音が折り重なっていく不穏さがたまらない。

2020年に投稿した曲がSNSでバズったリン・ラピッドのデビュー盤『BUZZKILL (forever)』、かなりいい。TikTok発のミュージシャンとしては珍しく、アコースティック寄りのアレンジが美しいインディ・ポップ。ちょっとクレイロみたいなベッドルーム・ポップ的DIY感がある。

9月27日(土)

「続・続・最後から二番目の恋」で小泉今日子の白髪ヘアが話題になったけど、還暦ツアーもKYON2はそのスタイルをキープ。夏木マリのようなカッコいい60歳を提示している。この人は永遠のトレンドセッターだ。

9月28日(日)

トレント・レズナーアッティカス・ロスではなくナイン・インチ・ネイルズ名義でリリースした「TRON: Ares」サントラ、想像以上にナイン・インチ・ネイルズで、想像以上にトロンなサウンドだった。

9月29日(月)

スティーブン・ソダーバーグ『ジョーズ』に関する本を書いているらしい。「いま執筆中だ。『The Christophers』が完成したら本格的に取り組みたい。『ジョーズ』は監督術を語る格好の題材だからね」

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