ランダム・ハーツ/シドニー・ポラック

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傑作の誉れ高いアルフレッド・ヒッチコックの『めまい』(1958年)は、内容だけ取り出せばそうとうな変態話である。

キム・ノヴァク演じる妖婦マデリンにゾッコンになったジェームズ・スチュワートが、彼女が不慮の死を遂げたあとも、「マデリン!マデリーン!」と彼女の影を追いかけまわす。

マデリンに瓜二つの女性を見つけては、金髪にさせるわ服装を変えさせるわと、死んだ女と同じ容姿に仕立て上げようとする物語なのだ。

『めまい』は、この世には居ない女性への妄執に取り憑かれた男の悲劇。そんなサイコ話の主人公を、実直&誠実キャラが売りだったジェームズ・スチュワートが演じることによって、その悲劇性がより深まるという構造になっていたんである。

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『ランダム・ハーツ』(1999年)もまた、構造的には『めまい』と近似した映画だ。ハリソン・フォード演じる巡査部長は、美しい妻と何一つ不自由のない生活を送っていたが、飛行機の墜落事故で突然愛妻を失ってしまう。

おまけに彼女は浮気相手と不倫旅行に出かける予定だったことが発覚、ハリソン・フォードは嫉妬の鬼と化す。そう、“この世にはすでに存在しない女性に対する、異常な恋慕”というモチーフが、実に『めまい』的なのだ。

だがドラマはここから意外な展開を見せる。死んだ不倫相手の妻(クリスティン・スコット・トーマス)の元に押し掛けて、浮気の事実を知らなかったかどうかを問いつめるまでは、サイコパス的ストーリー。

そこから、何故だか突然二人の間に恋の炎が燃え上がり、甘たっるい恋愛劇に変貌してしまうのだ。何じゃこりゃ?気がつけば、キャビンで二人が情熱的に体を重ね合ったりしていて、訳が分からないことこの上なし!

とにかくシドニー・ポラックの演出がヒドすぎ。二人の情熱の高まりを何一つ映像的に表現できていないし、現職警察官が関与しているらしい殺人事件のエピソードも、何らサスペンスとして機能していない。

精神的にはドン底状態のはずなのに、ハリソン・フォードがマイアミに到着するやいなや、陽気なラテン・ミュージックがBGMに流れたりして、監督が物語の流れを把握していないとしか思えない。

一番の問題は、序盤でハリソン・フォードと、クリスティン・スコット・トーマスのエピソードを、カットバックで並列につなぎ、あくまで客観的視座から物語を紡ごうとしてしまった点にある。

異常事態のまっただ中で、異常心理にある男の内面世界にフォーカスしていたならば、つまり主人公の主観的視座で物語を紡いでいたならば、『ランダム・ハーツ』は異形のラブ・サスペンスとして面白い題材になったに違いないのだが。

そういう意味でこの映画は、ロマン・ポランスキーあたりが撮るべき物語だったんであり、優等生監督のシドニー・ポラックには身分不相応だった気がして仕方がない。

DATA
  • 原題/Random Hearts
  • 製作年/1999年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/133分
STAFF
  • 監督/シドニー・ポラック
  • 製作/シドニー・ポラック、メアリーケイ・パウエル
  • 原作/ウォーレン・アドラー
  • 脚本/カート・リュードック
  • 撮影/フィリップ・ルースロ
  • 音楽/デイヴ・グルーシン
CAST
  • ハリソン・フォード
  • クリスティン・スコット・トーマス
  • チャールズ・S・ダットン
  • ボニー・ハント
  • デニス・ヘイスバート
  • シドニー・ポラック
  • リチャード・ジェンキンス
  • ポール・ギルフォイル
  • スザンナ・トンプソン
  • ピーター・コヨーテ

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