世界最長を目指し、何と約30年にわたって連載が続けられたという、中里介山の同名時代小説が原作(作者の死去により未完)。
過去に何度か映画化されており、大河内傳次郎+稲垣浩監督バージョン、片岡千恵蔵+渡辺邦男監督バージョン、片岡千恵蔵+内田吐夢監督バージョン、市川雷蔵+三隅研次&森一生監督バージョンなどが存在するが、仲代達矢+岡本喜八監督バージョンによる本作が今のところ最後の映画化作品である。
時代のターニングポイントとなった幕末を舞台に、狂乱の剣士・机竜之助を軸にした物語が綴られるのだが、これが激ヤバ。
何せ冒頭から大菩薩峠で巡礼の旅に出ていた老人を理由なく切り殺すわ、奉納試合で宇津木文之丞に勝ちを譲ってくれと嘆願してきた妻・お浜をレイプするわ、でも結局宇津木文之丞を試合で殺しちゃうわ、しまいに妻に迎えたお浜も自らの手で死に追いやるわで、そのあまりに空漠としたニヒリズムはハンパなし。
机竜之助の虚無的キャラが欧米では全く理解できず、単なる麻薬中毒者と見なされたという逸話もあるくらいだ(まあ日本人である僕も理解できませんが)。
手首が切り落とされたり喉仏から血が吹き飛ぶなど、阿鼻叫喚な殺陣シーンが多いにもかかわらず、喉越しはあくまでスマート。『侍』(1965年)や『斬る』(1968年)にも見受けられる短いカット割り、白黒のコントラストを強調したハイキーな画面設計など、岡本喜八監督のモダンな感性がスパークしているからだろう。
逆に仲代達矢演じる宇津木文之丞が、幻覚・幻聴に襲われて周囲のものを次々と切り倒すというような様式美的シーンが多少弱く見えてしまうのは、大乗仏教に根ざしたという原作の圧倒的な虚無感を、モダンな感性だけでは処理しきれなかった為かもしれない。
血なまぐさい物語にあって、お松を演じる内藤洋子の現代的な可愛らしさは特筆に価しよう(喜多嶋舞のお母さんですね)。その凛とした存在感は、ほとんど『ルパン三世 カリオストロの城』のクラリスと近似している。
最後、仲代達矢に「私も連れてって」って言ったらどーしよーと思って見てました。いや、言うはずないんだけど。
- 製作年/1966年
- 製作国/日本
- 上映時間/120分
- 監督/岡本喜八
- 脚本/橋本忍
- 製作/藤本真澄、佐藤正之、南里金春
- 原作/中里介山
- 撮影/村井博
- 美術/松山崇
- 音楽/佐藤勝
- 仲代達矢
- 新珠三千代
- 加山雄三
- 内藤洋子
- 佐藤慶
- 西村晃
- 中谷一郎
- 田中邦衛
- 三船敏郎
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