本陣殺人事件/高林陽一

本陣殺人事件 ≪HDニューマスター版≫ [Blu-ray]

時代設定を現代に移し変えた、ATG金田一耕助ムービー

【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。犯人もバラしてますので。】

かつて本陣として栄えた旧家・一柳家の屋敷では、当主の賢蔵が歳の離れた美しい花嫁を迎えていた。厳かに婚礼が執り行われた夜、屋敷内に悲鳴と激しい琴の音が響き渡り、血の海に横たわっていた新郎と新婦の死体が発見される。

金屏風には三本指の血の跡があり、凶器と思われる日本刀は灯籠の横に突き刺さっていた。さらに不可解なことには、庭には季節外れの雪が降り積もっており、離れは完全な密室状態と化していたのである…。

記念すべき金田一耕助シリーズの第一弾にして、戦後の日本探偵小説を代表する作品『本陣殺人事件』(1975年)を、8ミリ、16ミリの実験映画で注目を浴びていた高林陽一が映像化。

本陣殺人事件 (角川文庫)
『本陣殺人事件』(横溝正史)

1947年に片岡千恵蔵主演で一度映画化されているが、今作では時代設定を昭和初期から現代に移し変えて、イメージを刷新している。

金田一耕助を演じるのは、まだマフラーをぐるぐる巻きする前の若かりし中尾彬。セルの袴&下駄履きという、『犬神家の一族』(1976年)における石坂浩二のようなお馴染みの姿ではなく、ジーンズ&グラサンという’70年代ヒッピースタイルで登場するのが新鮮。

だが、この時代設定の変更ははっきりいってマイナスだったんではないか(もっともこれは予算的な都合もあったようだが)。横溝作品に漂う昭和ロマネスクな香りは跡形も無くなっているし、そもそも真犯人である賢蔵(田村高廣)の動機そのものが変質してしまっている。

本陣の封建的末裔である賢蔵が、生来の潔癖性と暴君性によって、処女ではなかった若妻を惨殺するというのが原作の筋書きなのだが、映画では少年のような純粋さで愛したがゆえに、処女でなかった妻を許せなかったという陳腐な動機に移し替えられている。

これではそもそも、「本陣の悲劇」が顕在化してこない。親戚にシャッポを脱ぎたくないが為に縁談も破談にできない、という地主的意識が欠落してしまっている。

妙にワンカットが長過ぎてテンポは停滞しまっているし、状況描写は登場人物のセリフに頼りすぎてるし、脳裏に焼き付く印象的なカットもない(田村高廣の写真が飾られた額縁に亀裂が走るシーンぐらいか)。

日本家屋の構造を活かした密室トリックも、なぜか計3回にもわたってご丁寧に描かれるものだから、しつこい事この上ない。どんなにアホでもあんだけ繰り返せば分かるっつーの!

もう一つ、音楽について述べておこう。この作品の音楽監督を務めているのは、実は日本映画界の巨匠・大林宣彦である。

転校生 [DVD]
『転校生』(大林宣彦)

自主製作映画の時代から自らピアノを弾いて曲をつけており、そのマルチな才能に畏敬の念を覚えていた高林陽一が、本作の映画音楽を依頼したらしい。この縁で、同じく高林陽一監督の『すばらしい蒸気機関車』の音楽も担当している。

ただ、やや叙情的すぎるメロディーが横溝的幻想世界とコンフリクトを起こしており、この起用もあまり成功したとは言い難いんではないか。

DATA
  • 製作年/1975年
  • 製作国/日本
  • 上映時間/106分
STAFF
  • 監督/高林陽一
  • 製作/高林輝雄、西岡善信
  • 原作/横溝正史
  • 脚本/高林陽一
  • 企画/葛井欣士郎
  • 撮影/森田富士郎
  • 音楽/大林宣彦
  • 美術/西岡善信
  • 編集/谷口登司夫
  • 録音/中沢光喜
CAST
  • 田村高廣
  • 高沢順子
  • 新田章
  • 東龍子
  • 加賀邦男
  • 水原ゆう紀
  • 山本織江
  • 伴勇太郎
  • 東野孝彦
  • 常田富士男
  • 村松英子
  • 中尾彬

アーカイブ

メタ情報

最近の投稿

最近のコメント

カテゴリー