観る者に強烈なインパクトを残す、内田吐夢版『大菩薩峠』三部作・最終章
内田吐夢版『大菩薩峠』三部作、いよいよ最終作。この『大菩薩峠 完結篇』(1959年)で、とにかく目を見張ったシーンが2つある。
一つは、神尾主膳(山形勲)の命により焼き討ちにあった机竜之助(片岡千恵蔵)が、炎が燃え盛る荒屋敷をバックに、神尾の手勢をなぎ倒していく場面。
とにかく内田吐夢は極端なほどにカットを割らず、長廻しを好む監督なんだが、ここでもカメラは手前に移動するのみで、とにかく正面から千恵蔵を見据え続ける。
このチャンバラシーンが秀逸なのは、遠近を強調した絵作りをしている点だ。お銀を演じる喜多川千鶴は常に一定距離の後方に位置し、縦の奥行感をキープ。
普通ならば、もうもうと煙がたちこめる屋敷を全景にして、よりスピーディー&タイトなアクションシーンを作りたくなるものだと思うが、こういうケレン味のあるシーンを撮りあげてしまうのが内田吐夢の真骨頂なのだと思う。
もうひとつは、灯籠がパッと2つに割かれると、中から生首が現れるという悪夢のシーン。セット自体はわりとチープなんだが、前作『大菩薩峠 第二部』(1958年)のレビューでも触れた“鈴木清順にも通じるアバンギャルドなセンス”がこの場面でもスパークしており、けたたましい笑い声で千恵蔵の精神をかき乱すお浜(長谷川裕見子)の妖艶演技とも相まって、脳裏に焼き付くシーンになっている。
お君(星美智子)と駒井能登守(東千代之介)、米友(加賀邦男)の三角関係はどうなるの?とか、宇津木兵馬(中村錦之助)とお松(丘さとみ)の恋は成就するの?とか、サイドストーリーは何一つはっきりしないまま終幕を迎えるのは、やや不完全燃焼の感が強い。
それも、全て濁流に呑み込まれて姿を消した千恵蔵のごとく、受け流してしまえということか。とにもかくにも、内田吐夢版『大菩薩峠』三部作は、観る者に強烈なインパクトを残す希代の逸品となったことは間違いない。
- 製作年/1959年
- 製作国/日本
- 上映時間/104分
- 監督/内田吐夢
- 製作/大川博
- 原作/中里介山
- 脚本/猪俣勝人、柴英三郎
- 企画/玉木潤一郎、南里金春
- 撮影/三木滋人
- 音楽/深井史郎
- 美術/鈴木孝俊
- 編集/宮本信太郎
- 録音/佐々木稔郎
- 片岡千恵蔵
- 中村錦之助
- 東千代之介
- 月形龍之介
- 長谷川裕見子
- 丘さとみ
- 星美智子
- 喜多川千鶴
- 山形勲
- 河野秋武
- 沢村貞子
- 浦里はるみ
- 植木基晴
- 左卜全
最近のコメント