グラン・トリノ/クリント・イーストウッド

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【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。】

クリント・イーストウッドはその主演作において、頑迷なまでにクリント・イーストウッドであり続けてきた。狂気に満ちた悪に対抗すべく、暴力を肯定し、己自身を肯定する、アメリカ映画最後のカウボーイ。

もちろん『グラン・トリノ』はかつて“ダーティハリー”と呼ばれた刑事の後日談ではないし、老年のボクシング・トレーナー失踪後の物語でもない。

しかし我々観客は、イーストウッドが最後の出演作に選んだウォルト・コワルスキーという役にも、過去のイーストウッドの面影をしっかりと重ねてしまう。深く刻まれたその皺のひとつひとつに、揺るぎない巨大な父性を見るのだ。

ウォルト・コワルスキーは、黒人、ヒスパニック、アジア系、とにかく誰それかまわず罵倒を繰り返すレイシストで、無宗教論者で、意固地な老人。そして78歳という老齢にも関わらず、暴力をふるうこともいとわない男だ。

なるほど、このキャラクターにも“イーストウッドなるもの”は充満している。はからずも心の交流を果たしたモン族の少年・少女を救うために、老兵は銃を取り出し、チンピラに復讐を果たさんとする。彼は、勲章を授与された朝鮮戦争の英雄なのだ。

しかしイーストウッドは、この映画では最後まで銃を抜かない。骨と皮だけになった指で銃の引き金を引く真似をするのみで、チンピラたちが雨あられと発射するマシンガンの銃弾に倒れる。彼が映画内で射殺されて死ぬというのは、イーストウッド史上初!

故に、我々観客はここで混乱をきたす。彼は、法によって裁けなかった悪人を自らの倫理観に基づいて審判を下す、不死身のハンターではなかったのか?

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丸腰の人間を銃殺したことで、チンピラグループは長期刑に処せられることになる。イーストウッドはその最後の出演作において、自らが法になるのではなく、法の手にゆだねるという決断を下すんである。

心の奥底で澱のように沈殿している戦争体験、神父への懺悔、そしてクライマックスのサクリファイス。

これはイーストウッドの懺悔の物語なのか。正義という名で暴力を執行してきた男の、鎮魂の詩なのか。イーストウッドと同じ1930年生まれの78歳という設定のコワルスキーは、吐血を繰り返して、明らかに死期が迫っている。

確かに老いというテーマは、近年のイーストウッド映画では繰り返し奏でられてきたモチーフだが、それは肉体的な衰退を意味するものであり、ここまで直裁に死を予感させるキャラクターはいなかった。神父に向かって放つ、「生と死の意味を、お前は知っているのか?」というセリフにもそれは顕著だ)。

であるなら、“死”というファクターが、“イーストウッドなるもの”に方向転換を迫ったというのは、うがった見方だろうか。

彼は最後、モン族の少年にグラン・トリノを託す。コワルスキー宅の玄関に垂れ下がったアメリカ国旗のごとく、それはまさにイーストウッドが理想とするアメリカの象徴そのものだろう。それはオールドファッションで、偏狭で、保守的なアメリカかもしれない。

しかしそれを託したのが、圧倒的なマイノリティーであるアジア系モン族であったことに我々は留意すべきだ。果たしてアメリカの支配層であるWASPは、このイーストウッドからの強烈な遺言をどう受け止めるんだろうか。

DATA
  • 原題/Gran Torino
  • 製作年/2008年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/120分
STAFF
  • 監督/クリント・イーストウッド
  • 製作/クリント・イーストウッド、ロバート・ローレンツ、ビル・ガーバー
  • 製作総指揮/ジェネット・カーン、テアダム・リッチマン、ティム・ムーア、ブルース・バーマン
  • 脚本/ニック・シェンク
  • 原案/デヴィッド・ジョハンソン、ニック・シェンク
  • 撮影/トム・スターン
  • 美術/ジェームズ・J・ムラカミ
  • 音楽/カイル・イーストウッド、マイケル・スティーヴンス
CAST
  • クリント・イーストウッド
  • ビー・ヴァン
  • アーニー・ハー
  • クリストファー・カーリー
  • ブライアン・ヘイリー
  • ブライアン・ホウ
  • ジェラルディン・ヒューズ
  • ドリーマ・ウォーカー
  • コリー・ハードリクト
  • ジョン・キャロル・リンチ
  • スコット・リーヴス

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