古き良きグッドデイズの雰囲気をまぶした、極めてアメリカ的なアメリカ映画
時は、古き良き1910年代のアメリカ。
天賦の野球の才能をもった青年、ロイ・ホッブス(ロバート・レッドフォード)は、大リーガーの夢を抱いて夜行列車に乗り込むものの、ミステリアス美女に拳銃をぶっ放されて選手生命ジ・エンド。
時は流れ、超人的な努力でベースボールの世界に舞い戻ってきたロイは、ワンダーボーイと名付けた樫の木バットで、次々とミラクルを起こしていく…。
『ナチュラル』(1984年)は、シナリオだけとりだせば、そうとう荒唐無稽なお話。サゲマン美女のメモ(キム・ベイシンガー)とセックスすればするほど運が逃げてスランプに陥るとか(キム・ベイシンガーのビッチ感はさすがですね)、でも幼なじみのアイリス(グレン・クロース)と再会するやいなやスランプを脱出するとか。
まあ、撮影当時48歳だったロバート・レッドフォードが、35歳の中年ルーキーを演じる時点でかなり荒唐無稽ではありますが。ましてや、彼が19歳そこそこの青年を平然と演じるシーンなんぞ、杉良太郎が青年剣士を演じるような大衆演劇風味すら感じられて、ある意味味わい深し。
しかし、アメリカ映画で野球をとりあげるということは、お伽話を語ることと同義なんであって、荒唐無稽ノープロブレム!荒唐無稽上等!荒唐無稽万歳!なんであります。
『レインマン』(1988年)や『わが心のボルチモア』(1990年)など、抒情的な演出をやらせたらピカイチのバリー・レビンソンは、ネブラスカの美しい草原で父子がキャッチボールする場面も、火花がほとばしる中ダイヤモンドを一周するロイの姿も、「キメ」の場面は思い入れたっぷりにスローモーションで描出。
それに追い打ちをかけるようにランディ・ニューマンのノスタルジックな音楽、キャレブ・デシャネルの柔らかなトーンの色彩が合わさって、観客の涙腺を緩ませんと企む。
百人中百人が、ロイは野球賭博に関わらず最後までプレイ・ベースボールを貫くことを予感しているし、最後は逆転ホームランを放ってチームを優勝に導くことを知っている。
『ナチュラル』は、このうえなく予定調和な物語だ。かつ、古き良きグッドデイズの雰囲気をまぶしながら、繊細かつ大仰な演出で綴るという、極めてアメリカ的アメリカ映画だ。
野球はアメリカのお家芸、デファクト・スタンダード。ゆえに、アメリカのイノセンスを長年支えてきたロバート・レッドフォードの起用は、さもありなん、なんである。
- 原題/The Natural
- 製作年/1984年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/137分
- 監督/バリー・レビンソン
- 製作/マーク・ジョンソン
- 原作/バーナード・マラマッド
- 脚本/ロジャー・タウン、フィル・ダッセンベリー
- 撮影/キャレブ・デシャネル
- 音楽/ランディ・ニューマン
- ロバート・レッドフォード
- グレン・クローズ
- ロバート・デュヴァル
- キム・ベイシンガー
- ウィルフォード・ブリムリー
- リチャード・ファーンズワース
- バーバラ・ハーシー
- ロバート・プロスキー
- ダーレン・マクギャヴィン
- ジョー・ドン・ベイカー
- ジョン・フィネガン
- アラン・ファッジ
- マイケル・マドセン
最近のコメント